2010-07-21 事業譲渡と商号の続用

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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。

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1 今回の判例   事業譲渡と商号の続用
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平成21年7月15日東京地裁判決
(登場する会社は仮名です。)

 X社は、「アオキ商事株式会社」等に対し、その事業によってX
社に生じた損害の賠償を求める訴訟を起こし、平成20年3月21日、ア
オキ商事株式会社等に対し、4億円余の支払いを命じる判決がなさ
れました(そのまま確定)。

 ところが、この判決がなされる直前の平成20年2月19日、アオキ商
事株式会社は、自社の商号をUT株式会社と変更しました。

 一方、同じ平成20年2月19日、Y社(「株式会社三島コーポレーシ
ョン」。同社の代表取締役は、アオキ商事株式会社の代表取締役の
子)は、自社の商号を「アオキ株式会社」に変更しました。

 そこで、X社は、Y社がアオキ商事株式会社から事業を譲り受け
、さらに商号も続用しているから、Y社もアオキ商事株式会社の債

の弁済責任を負うと主張して、Y社に対し、この債務の支払いを求
める訴訟を起こしました。

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2 裁判所の判断
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 裁判所は、以下のとおり判断して、Y社に対し、アオキ商事株式
会社が負う債務の支払いを命じました。

(1) Y社は、アオキ商事株式会社から事業を譲り受けていた。

(2) 商号の続用については、取引通念上、従前の商号と同一の商号
を継続したと見られる場合も商号の続用にあたる。

(3) 本件の事情からすれば、取引通念上、Y社は、アオキ商事株式
会社の商号と同一の商号を継続したと認められる。

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3 解説
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(1)事業譲渡の際に商号を続用することのリスク

 ある会社が他社から事業を譲り受ける場合、譲受会社としては、
譲渡会社がそれまでに培ってきたノウハウや技術に加え、その会社
の社名(商号)そのものが持つ信用やブランド力も利用したい、と
考えるのが自然です。そのため、譲受会社が、事業を譲り受けるの
と同時に、譲渡会社と同一又はこれに似た社名(商号)への変更を
検討することもあり得ます。

 しかし、このように譲渡会社の商号を引き続き使用することには
リスクが伴います。というのも、会社法22条1項は、譲受会社が譲
渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡
会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う、との原則を
打ち立てているからです。
 
 そのため、譲渡会社の財務状況をよく確認しないままその商号を
使用してしまうと、譲受会社において予期せぬ請求を受け、最悪の
場合、事業自体の破綻という結果にも至りかねません。

 特に、事業譲渡は、譲渡会社においてその事業が不採算になって
いるときに行われることが多いですから、必然的に譲渡会社も多額
の債務を負っている可能性が少なくなく、このリスクは決して軽視
できないといえます。

 したがって、譲渡会社の社名の信用やブランド力を利用するため
社名(商号)を変更したい、と考えている場合であっても、変更後
の社名が、会社法の規定する「商号を引き続き使用する」場合にあ
たらないかどうか、を慎重に検討する必要があります。

   
(2)「商号の続用」の判断要素

 今回取り上げた裁判では、事業を譲り受けたY社の「アオキ株式
会社」という社名が、「アオキ商事株式会社」という譲渡会社の商
号を続用したものではないか、という点が争点となりました。

 この点について裁判所は、結論として「商号の続用」にあたる、
と判断したわけですが、その根拠となる事情として以下のような点
を指摘しています。

(1)両者において「アオキ」という商号の主体部分に変動はない
(2)会社の種類も同じ(株式会社)
(3)Y社の商号に「新」のような新しい主体であることを連想させる
文字は使用されていない
(4)両者の違いは「商事」の語の有無に尽き、その有無が重要な違い
を示すとはいえない
(5)両者の英文表記名は全く同一(AOKI TRADING CO.,LTD.)

 このように裁判所は、名称の共通点(アオキ)に注目しつつこれ
以外の要素も加味した上で、商業の続用にあたるか否かを判断して
いることが分かります。もっとも、どの要素がどの程度重視されて
いるかは、判決文を見るだけでは直ちには判明しません。

(3)リスク回避の方策について

 上記の例からも分かるとおり、「商号の続用」にあたるか否かに
ついては、個別のケースごとに存在するいくつもの事情を考慮した
上で判断がなされます。

 そうすると、仮にこの点が裁判で争われるとすれば裁判所がどの
ような判断をするかの見通しを立てるためには、会社法の規定の趣
旨や、これまでに蓄積された裁判例の傾向を正確に把握した上で、
どのような事情がどの程度考慮され得るかを、可能な限り的確に見
極めることが必要不可欠です。

 したがって、具体的に事業譲渡と商号の続用が問題になるケース
が発生したときには、どのような商号であればリスクを回避できる
か、また商号の続用にあたる可能性が高い場合でも他にリスク回避
の方策がないか等について、専門家である弁護士のアドバイスを求
めることがたいへん重要であると思われます。



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