2015-03-10 独禁法に基づく差止請求権

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1 今回の判例  独禁法に基づく差止請求権

東京高裁平成26年6月19日

 これは、ソフトバンクBB(SBB)ほか2社が、光ファイバーアクセス回線の貸し出し方式をめぐり、NTT東日本等に提起した訴訟です。

 同訴訟では、SBBが、NTTの保有する光ファイバーのシェアドアクセス方式(1本の光ファイバー回線を最大32ユーザーで共用する方式)を用いてFTTHサービスを展開しようとすると、現状では8分岐単位での接続となり、1回線の利用であっても8回線分の接続料を負担させられていると主張し、技術的に可能であるにもかかわらずNTTが1分岐単位の回線接続を拒否することが、SBB等の通信事業者がFTTH市場に参入すること困難にさせている、と主張しました。

 そして、SBBは、独占禁止法24条に基づき、8分岐単位での接続を強要したり、1分岐単位での接続の申し込を拒否する行為の差止等を求めました。

 

2 裁判所の判断

 裁判所は、以下のとおり判断しました。

● 電気通信事業法による規制は独占禁止法による規制を排除するものではないが、SBBからの請求に関する接続に関しては、接続約款等についての総務大臣の認可がない以上、NTTは、電気通信事業法上、このような接続に応じてはならない義務を課されている。

● にもかかわらず、独占禁止法により、このような接続をする義務をNTTらに課すことは、NTTに相互に矛盾する法的義務を課すことになるから、SBBらは独禁法24条に基づき当該接続を求める請求はできない。

● 電気通信事業法32条は、接続という行為義務自体を定めたものではなく、接続に関する協定の締結と維持を定めたものである。接続約款も協定も総務大臣の認可が必要だが、本件においては認可がないため、同法により接続請求権が発生すると解する余地はない。

 

3 解説

 

(1)独占禁止法と差止請求

 独占禁止法は、公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすることを目的とした重要な法律ですが、少し前までは、独占禁止法違反行為の差止めを命じることができるのは、公正取引委員会だけでした。他方、私人・私企業は、公取委へに対し独禁法違反行為を申告することはできましたが、違反者に対して直接に差止を請求する権利はありませんでした。

 しかし、平成12年改正の独禁法(平成13年施行)において、被害者が、裁判所への訴えにより、違反行為者に対する独占禁止法違反行為の差止を請求することができるようになりました。

(2)差止請求が可能な独禁法違反行為

 差止請求の対象となる行為は、独占禁止法違反行為のうち、「不公正な取引方法」に関するものとされています。具体的には公取委が指定しますが、主なものは以下のとおりです。

<再販売価格維持行為>
正当な理由がないのに、取引先事業者に対して、転売する価格を指示し、遵守させることをいいます。例えばメーカーが小売店に小売価格を指示するという場合があります。

<抱き合わせ販売>
 不当に、商品に別の商品を抱き合わせて販売することにより、顧客に対し、別の商品の購入を強要することをいいます。一例としては、売れているゲームソフトに売れ残ったゲームソフトを抱き合わせて販売するなどがあります。

<不当廉売>
 正当な理由がないのに、供給に必要な経費を著しく下回る価格で継続して販売するなどし、競争業者の事業活動を困難にさせるおそれを生じさせることといいます。

<共同ボイコット>
 正当な理由がないのに、同業他社と共同して、特定の事業者と取引しないようにする行為をいいます。一例としては、メーカーや卸売業者が、商品価格の維持の目的で、共同して、安売りを行う小売店とは取引をしないようにすることがあります。

<欺瞞的顧客誘引>
 商品の内容や取引条件について、実際のものや競争業者のものより、著しく優れている、著しく有利であると誤認させることにより、競争業者の顧客を不当に誘引することをいいます。

<排他条件付取引>
 不当に、自分の競争者とは取引しないことを条件として相手方と取引をすることです。例えば、メーカーが、卸売業者と取引する際、競業者の製品を取り扱わないことを条件とすることによって、その競争業者の取引の機会が減少するような場合等が考えられます。

<拘束条件付取引>
 販売形態・販売地域などについて不当に拘束する条件を付けて取引することです。
一例としては、メーカーが、製品の販売に当たって、小売業者の販売地域を制限することに
よって、その製品の価格が維持されるおそれがある場合があります。

<優越的地位の濫用>
 取引上の地位が相手方に優越していることを利用して取引の相手方に不当に不利益を与えることをいいます。例えば、有力なスーパーマーケットが、納入業者に対し、取引の条件として、取引とは直接関係のない協賛金の支出を要求することが挙げられます。また、百貨店が納入業者に対し、押し付け販売をしたり、催し物についての費用負担を求めるというケースもあります。

(3)ビジネス上の留意点

 独禁法の不公正な取引方法が問題となるのは、自社との取引先であることが多く、確かに、取引先に対して訴訟提起が難しいケースが多いことと思います。また、裁判所が差止請求を認めた例は少ないのが現状です。

 もっとも、独禁法上の差止請求を意識することが交渉に役立つこともあります。今回の事例から離れますが、例えば自社の納入先が大手企業であり、同社内ではコンプライアンスが重視されているのに、担当者がこれを理解しておらず、不公正な取引方法を自社に押し付けてくる、というケースがあるかもしれません。

 しかし、近年ではコンプライアンスがますます重要視されてきています。公正取引委員会が公表している「企業における独占禁止法コンプライアンスに関する取組状況について」(平成24年)には、一部上場企業についてですが、独占禁止法コンプライアンス・マニュアルを策定している企業は68.8%、独占禁止法研修を実施している企業は8割強という調査結果も示されていますが、これもコンプライアンス重視の表れと考えられます。

 それで、このようなコンプライアンス重視の傾向を考えると、納入業者として、契約交渉や取引の場面において、独占禁止法の考え方をある程度知っておくならば、納入先などの取引先からの不当な要求に対し、独禁法に抵触する旨をうまく指摘することで、不当な要求を思いとどまらせる一つの理由になるかもしれません。

 そして、中小企業においても、こうした交渉を行うことによって自社の正当な利益を守っていく努力は、長期的に見た自社の存続のための一つの有効な手段となるのではないかと思われます。



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