2013-06-25 著作権の共有と実務上の留意点

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1 今回の判例 著作権の共有と実務上の留意点

大阪地裁平成23年11月24日判決

 平成12年1月、原告A社は、亡B氏との間で、亡B氏が創作した「検査用紙」について出版契約を締結し、これら検査用紙を出版・販売していました。

 そして、同契約において定められている利用期間が満了する前に、亡B氏の複数の相続人の一人であるC氏から同契約の更新を拒絶する通知がなされており、同契約の更新を巡って紛争が生じました。

 それで、A社は、A社、C氏を除く亡B氏の相続人と、C氏との間で、前記出版契約が存在していることの確認を求めたのが、本件の裁判です。

 

2  判決の内容

裁判所は以下のように述べ、出版契約の存在を認めました。

  • 著作権法65条2項は「共有著作権は、その共有者全員の合意によらなければ、行使することができない」と規定している。
  • 著作権法65条3項はさらに「・・各共有者は,正当な理由がない限り、・・前項の合意の成立を妨げることができない。」と規定しているから、C氏の更新拒絶が有効であるといえるためには、「正当な理由」が必要である。
  • 各検査用紙の質問事項と回答欄の構成に問題があるという事実は、更新拒絶について正当な理由があることを基礎付ける事実になり得る。
  • しかし、C氏の主張する各検査用紙の問題は、証拠の裏づけがないか、学会において少数意見に留まっており、出版契約の更新拒絶についての「正当な理由」を基礎付ける事実としては十分なものではない。
  • C氏の意思が他の著作権の共有者よりも尊重されるべき理由はなく、現時点の社会的需要に鑑みれば、各検査用紙の出版、販売を直ちに止めなければならない理由となるほどの問題があったと認められない。

 

3 解説

(1)共有著作権の扱い

 共同で創作された著作物や、複数の相続人が相続した著作物の著作権は共有となります。そして、著作権法は、共有にかかる著作権の扱いについて規定を置いています。

 例えば、各共有者は、その持分を譲渡するなど、著作権の共有持分を処分する場合、共有者全員の合意を得る必要があります(65条1項)。

 また本件で問題となったように、共有著作権は、共有者全員の合意によらなければ行使することができないものとされています(65条2項)。その「行使」の一つに、著作権の利用許諾が含まれるわけです。

 他方、著作権に基づく差止請求・損害賠償請求等は、各共有者が単独で行うことができます(117条)。

(2)実務上の留意点

 以上のとおり、著作権が共有とされた場合、その扱いには大きな制約(特に全員の共有者の合意)が加わりますので、実務上、ある著作物を安易に共有とすることは慎重に考える必要があります。

 例えば、ソフトウェア開発委託において、契約規定中、成果物の著作権の帰属について双方の主張が対立し、まとまらないということがあります。この場合、妥結案として、成果物の著作権を共有とするという案が用いられることがあります。

 しかし、単に著作権の共有について規定するだけにとどめると、前記のとおり共有著作権の行使に対する制約から、大きな足かせとなることがあります。例えば委託者は、当該委託によって開発したソフトウェアを第三者に販売(ライセンス)したいと思っても、受託者側から、「その販売は自己の同意が要る」などと主張され、これが紛糾の種となるということがありえます。

 ですから、仮に著作権を共有とするとしても、自社のビジネスを具体的に念頭に置いた上で、後々の成果物の利用に支障が生じないよう、当該成果物をどのように利用できるか、複製のほか、改変や改良については単独でどこまで行えるのか、著作権の共有持分の譲渡は可能か否か等、詳細な点を契約書に定める必要があります。

 契約交渉においては妥協はつきものですが、それに際しては、生じうるリスクとビジネスへの支障をできる限り回避するような周到な方策を同時に考え、勝ち取れるよう交渉を行うことが実務上は重要であると考えます。

 

参考ページ:著作権法解説 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/chosakuken/index/


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