2013-07-09 会社分割と債権者の保護

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1 今回の判例 会社分割と債権者の保護

最高裁 平成24年10月12日判決

 A社(債務超過)は、新設分割という会社分割の方法を使ってY社とC社を設立しました。A社は、Y社の新設分割の際、Y社に一部の債権債務を承継させて重畳的債務引受をしたほか、A社の唯一のめぼしい資産だった不動産を承継させました。

 Y社の設立当時、B社はA社に対し保証債務履行請求権を持っていましたが、その保証債務はY社に承継されなかったため、保証債務の引当てとすることができるA社の資産は、Y社とC社の株式のみとなりました。

 そこで、B社から上記A社に対する保証債権の回収を委託されたサービサーのX社が、A社が新設分割により上記不動産をY社に承継させたことは「詐害行為」にあたるとして、新設分割の取消を求める訴えを提起しました。

 

2  判決の内容

裁判所は、以下のように判断しました。

 新設分割がされた場合に、新たに設立する会社にその債権に係る債務が承継されず、新設分割について異議を述べることもできない分割会社の債権者は、詐害行為取消権を行使して、被保全債権の保全に必要な限度で新設分割を取り消すことができる。

 

3 解説

(1)新設分割のメリットと弊害

 新設分割・吸収分割は、会社が事業に関して有する権利義務の一部を分割して他の会社(新設分割なら新たに設立する会社、吸収分割なら既存の別の会社)に承継させるもので、容易に事業の一部を子会社化したり、事業の一部をグループ外に切り離すことができるという意味では、便利な制度です。

 そして、会社分割に際し、ある債務を分割前の会社に残すか、分割後の会社に移すかについても、自己が判断することができる上、分割会社が新設会社の株式を100%持つ場合には、分割前後の分割会社の資産状態が変わらないという理由から、会社分割手続において通常要求される、債権者保護手続も不要であると解されています。そのため、会社分割は、法律上は、債権者に干渉される煩わしさを避けることもできるというメリットがあるとされていました。

 しかし、保護手続を利用できない債権者から見れば、債務者(分割前の会社)の資産が移され、実質的にもぬけの殻状態になってしまうという弊害から、裁判所は、そのような債権者を害する新設分割がなされた場合に、債権者保護のため、詐害行為取消権を行使できるとしたわけです。

(2)実務上の留意点

 ここ数年よく利用されるようになった、優良事業部門だけを切り出して会社の全資産と必要な債務(買掛金等)のみを移転させ、不振部門に不要な債務だけを残し、場合により不振部門を法的に整理するという方法は、今回のように詐害行為取消権を行使されるリスクが高いことが明らかになったように思われます。

 確かに、債務超過に陥り、事業を存続させたいという場合、目の前にある多額の債務から事実上逃れられ、債権者とのやっかいな折衝をも避けられるようなスキームは一見魅力的であるように思えたかもしれません。

 しかし長期的に見れば、債権者をできるかぎり公平に扱い、フェアな手続を行うことが、自社の再建に対する債権者の理解につながり、法的紛争のリスクを避けることにつながります。

 例えば存続させる価値のある優良事業部門が自社に存在するのであれば、民事再生申立をし、優良事業部門の収益力からの全債権者への弁済(元本の大幅減額のうえ)という再生計画を立て、優良事業部門の存続を図ることも検討できます。また、優良事業部門を妥当な価格で事業価値を算定し、スポンサーを見つけて事業譲渡し、債権者の同意を得て譲渡代金を弁済に充てるという方法も検討できます。

 いずれにしても、債権者にとってできる限り透明なプロセスを経て、不平等感を残さない、債権者の納得を得られるような方法で再建を進めることが、長期的に見れば重要ではないかと思われます。

 

参考ページ:会社法解説 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/kaishahou/index/


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