2017-07-25 65歳更新上限規則と雇止めの有効性

ここでは、弊所発行のメールマガジン「ビジネスに直結する判例・法律・知的財産情報」のバックナンバーを掲載しています。同メルマガでは、比較的最近の判例の紹介を通じ、ビジネスに直結する法律知識と実務上の指針を提供します。

学術的・難解な判例の評論は極力避け、分かりやすさと実践性に主眼を置いています。経営者、企業の法務担当者、知財担当者、管理部署の社員が知っておくべき知的財産とビジネスに必要な法律知識を少しずつ吸収することができます。メルマガの購読(購読料無料)は、以下のフォームから行えます。

登録メールアドレス   
<クイズ> 
 これは、コンピュータプログラムがこの入力フォームから機械的に送信することを防ぐための項目です。ご協力をお願いいたします。
 

なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。

以下の検索ボックスを利用して、トピックページ(メルマガバックナンバー)から検索できます。

1 今回の事例 65歳更新上限規則と雇止めの有効性

東京高等裁判所平成28年10月5日判決

 A氏ほか8名は、B社との間で期間の定めのある雇用契約を締結して就労し、それぞれ6~9回にわたってその更新を行ってきましたが、満65歳に達した契約を最後に、雇用期間満了を理由に雇止めされました。

 B社の期間雇用社員就業規則には、「会社の都合による特別な場合のほかは、満65歳に達した日以後における最初の雇用契約の満了の日が到来したときは、それ以後、雇用契約を更新しない。」と規定されていました。

 またこの年齢による不更新規定は、B社の分割民営化に伴い制定されたものであり、A氏らは、それ以前からB社に勤務していました。

 以上の事実のもと、A氏らは、雇止めは解雇権濫用法理が類推適用され無効であるなどと主張しました。

 なお、本件については争点が多岐に及びますが、本稿では、雇用契約が期間の定めのない雇用契約と実質的に異ならない状態になっていたか、また、雇止めが解雇権濫用法理により権利濫用となるかという点に絞ります。

裁判所の判断

 第一審の裁判所は以下のように判断して本件雇止めを有効としA氏らの訴えを認めませんでした。高等裁判所も第一審の判断を維持しました。

● 雇用契約が6~9回更新され、契約の更新を希望する場合に会社に対する申出を必ずしも必要としていない運用がされている等の事情から、B社における期間雇用社員の契約更新手続が形骸化し、実質的に期間の定めのない雇用契約と同視しうる状態になっていた。

● B社の分割民営化に伴い制定された就業規則は、A氏らの労働条件を不利益に変更するものであり、就業規則の不利益変更法理によりその有効性について判断すべきである。

● 年齢上限規制によってA氏らが不利益を被るものの、不利益の程度は限定的なものであり、使用者であるB社において必要性が認められ、内容それ自体も相当であるから、労働条件を変更する合理性が認められる。

3 解説

(1)有期雇用契約と雇い止め法理

 労働契約には、期間の定めのない雇用契約と、期間の定めのある有期雇用契約があります。そして解雇が厳しく制限される我が国の労働法において、期間満了とともに原則として契約を当然に終了させることができる有期雇用契約は、多く利用されています。

 しかし実際は、人員調整を容易にするための便宜上「有期」となっているものの、現実の運用ではルーズかつ機械的な更新手続がなされたり、更新手続さえされないというケースもあります。

 そのため判例法理やこれを明文化した労働契約法19条は、有期雇用契約であっても、反復して更新されたことがあるもので、当該有期契約が期間の定めのない契約と実質的に異ならない場合などには、雇止めが許されないとしています。

 本件においても裁判所は、契約更新時の運用実態から、「実質的に期間の定めのない雇用契約と同視しうる状態になっていた」と判断しました。

 それで、有期雇用契約を利用する企業としては、安易な雇止めは避けるべきですが、真に必要な場合になす雇止めが無効と判断されることがないよう、備えをしておく必要があるといえます。

 具体的には、実質的に正社員と変わらないのに有期雇用契約を便宜的に使用するよりも、業務内容や契約上の地位が臨時的である場合や、正社員と業務内容などが相違するというケースで有期雇用契約を採用するといった措置が考えられます。また、契約更新の都度面談を行って契約書を交わすようにしたり、次回更新する・しないの判断につき、会社の経営状況、期間満了時の業務量により判断する旨を明記し、当該判断を記録に残すといった措置が取れるかもしれません。

(2)有期雇用契約の無期転換の規定とその特例

 また、労働契約法18条は、有期雇用契約が反復更新されて通算5年を超えたときは、労働者が「期間の定めのない労働契約締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす」として、無期雇用契約に転換できる(無期転換申込権)という規定を設けています。そしてこれは、施行日である平成25年4月1日以後の日を契約期間の初日とする有期労働契約について適用されます。

 そして、当該無期転換規定の特例として「有期雇用特別措置法」により、定年前から継続して雇用しており、定年に達した後引き続いて雇用される有期雇用労働者については、一定の条件のもと、無期転換申込権が発生しないこととできる制度が平成27年4月1日から始まりました。
 
 ここで留意すべきは、この特例の適用を受けるために、雇用管理措置に関する計画の認定申請をし、都道府県労働局長の認定を受ける必要がある、という点です。

 高年法との関係で高齢者を継続雇用する場合に有期雇用契約を採用する企業は少なくないと思われますが、無期転換リスクを回避するためにこの特例を活用することは検討の価値があるかもしれません。
 

4 弊所ウェブサイト紹介~IT・ソフトウェア・システム開発

弊所のウェブサイトの法律情報の解説のページには、ビジネス・企
業に関係した法律情報に関する豊富な情報があります。

本稿のテーマとは関係がなく恐縮ですが、IT・ソフトウェア・シス
テム開発・コンピュータ関連問題は弊所の最大の取扱分野の一つで
す。

https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/it/index/

にあるとおり、システム開発委託契約、ソフトウェア使用許諾契約、
ソフトウェアOEM契約といった契約のポイント、オープンソースや
システム開発に関連した法律問題・係争に関する解説など豊富な解
説を用意しています。

なお、同サイトは今後も随時加筆していく予定ですので、同サイト
において解説に加えることを希望される項目がありましたら、メー
ルでご一報くだされば幸いです。



メルマガ購読申込はこちらから

弊所発行のメールマガジン「ビジネスに直結する判例・法律・知的財産情報」は、以下のフォームから行えます。

登録メールアドレス   
<クイズ> 
 これは、コンピュータプログラムがこの入力フォームから機械的に送信することを防ぐための項目です。ご協力をお願いいたします。
 

 なお、入力されたメールアドレスについては厳格に管理し、メルマガ配信以外の目的では使用しません。安心して購読申込ください。



法律相談等のご案内


弊所へのご相談・弊所の事務所情報等については以下をご覧ください。



Copyright(c) 2017 弁護士法人クラフトマン IT・技術・特許・商標に強い法律事務所(東京・横浜)  All Rights Reserved.

  法律相談(ウェブ会議・面談)

  顧問弁護士契約のご案内


  弁護士費用オンライン自動見積


   e-mail info@ishioroshi.com

  電話 050-5490-7836

メールマガジンご案内
ビジネスに直結する
判例・法律・知的財産情報


購読無料。経営者、企業の法務担当者、知財担当者、管理部署の社員が知っておくべき知的財産とビジネスに必要な法律知識を少しずつ吸収することができます。

バックナンバーはこちらから