2025-07-22 企業間売買と契約不適合責任(1)
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
今回の事例 企業間売買と契約不適合責任(1)
東京高裁令和4年12月8日判決
衣服の製造加工を営むA社は、他者に納入する従業員用ユニフォームに縫い付けるバーコードネームをB社に発注しましたが、B社は誤ったバーコードを印刷したバーコードネームを納入したため、A社がB社に対して損害賠償を請求しました。
この点、本件のような企業間売買に適用される商法526条2項では、買主が売主に契約不適合責任(瑕疵担保責任)を請求できるのは、目的物の受領後遅滞なく検査して不適合を発見後直ちに売主に通知するか、すぐに発見できない不適合も6か月以内に発見した場合に限るとされています。
しかし、同条3項では、売主が当該不適合を知っていた場合は、前記制限は適用されません。
そして本件では、売上が当該不適合を知っていたとはいえないものの、不適合を知らなかったことに「重過失」があり、この場合に、商法526条3項が適用されるのか否か(つまり契約不適合責任を追求できるのか)が問題となりました。
裁判所は、売主が不適合を知らなかったとしても、その知らなかったことにつき「重過失」がある場合は、商法526条3項が適用されると判断し、A社の損害賠償請求を認めました。
解説
(1) 企業間売買と契約不適合責任(瑕疵担保責任)
売買契約における契約不適合責任とは、売買の対象となった物(目的物)が「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」である場合に、売主が買主に対して負う責任です。
そして、契約不適合責任は、民法に定めがありますが、会社のようないわゆる「商人」の間の売買取引においては、民法の特則として商法526条の規定があります。
そして買主が契約不適合責任を追求できる要件は、企業間取引の迅速性を重視して民法の場合に比べて、買主に厳しくなっています。
具体的には、買主はまず、目的物の受領後遅滞なく検査して不適合を発見後直ちに売主に通知する必要があり、また、すぐに発見できない不適合であっても6か月以内に発見する必要があることとされています。
(2) 口頭や注文書のみの取引の場合の注意点
企業間の売買取引においては、商品の種類や商慣習にもよりますが、契約書を作成せず、注文書のやりとりや、それすらなく口頭のみで取引がされることも少なくありません。
こうした場合には、たとえ知らなくても、民法ではなく商法の規定が適用されることに注意する必要があります。
例えば、買主が、納入された商品について、すぐに使わないからといった理由で検査を怠っていると、仮に納入から3ヶ月後に不適合が発見されても、検査すれば判明したようなものなら、契約不適合責任を追求できなくなってしまう場合があります。
また、民法が適用されると誤解して、不適合を知ってから1年以内なら大丈夫だろうと考えてのんびりとしていて、そして納入後8ヶ月後に発見した不適合について買主が売主に責任を求めても、遅きに失するということもあります。
それで、事業者としては、企業間の売買取引において適用される法律(民法とは限らない)について知っておくことは重要なことかと思います。
そこで次稿では、企業間の売買取引における商法の規定について、民法との違いも考慮しつつご説明します。
弊所ウェブサイト紹介 契約書作成・点検(レビュー)
弊所のウェブサイトの法律情報の解説のページには、ビジネス・企業に関係した法律情報に関する豊富な情報があります。
例えば本稿のテーマに関連した契約書関連については
https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/keiyaku/
において、「契約書」の作成において考慮すべき以下の点を含め、潜むリスクや弁護士に契約書作成・点検を依頼する意味について解説しています。
・契約書は中立ではない
・同じような内容でも書き方で効果が異なる
・書いていることより書いていないことが重要なことがある
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