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2010-01-05 映画の著作物の保護期間とパブリックドメイン

ここでは、弊所発行のメールマガジン「ビジネスに直結する判例・法律・知的財産情報」のバックナンバーを掲載しています。同メルマガでは、比較的最近の判例の紹介を通じ、ビジネスに直結する法律知識と実務上の指針を提供します。

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事案の概要

平成19年8月29日 東京地裁判決

チャールズ・チャップリンの映画9作品の著作権を保有管理すると主張するリヒテンシュタイン公国の法人が、格安DVDの製作・販売事業者に対し、DVDの複製・頒布の差止、在庫DVDの廃棄、損害賠償を求めた事案です。

対象となった作品は以下のものでした。

「サニーサイド」(1919年公開)
「偽牧師」(1923年公開)
「巴里の女性」(1923年公開)
「黄金狂時代」(1923年公開)
「街の灯」(1931年公開)
「モダン・タイムス」(1936年公開)
「独裁者」(1940年公開)
「殺人狂時代」(1947年公開)
「ライムライト」(1952年公開)

争点は、これらの映画の著作権の存続期間でした。

判決の概要

【結論】
原告側の差止・損害賠償請求が認容されました。

裁判所が認定した各作品の著作権の存続期間は以下のとおりです。

公開      存続期間
「サニーサイド」  1919年 2015年12月31日
「偽牧師」     1923年 2015年12月31日
「巴里の女性」   1923年 2015年12月31日
「黄金狂時代」   1923年 2015年12月31日
「街の灯」     1931年 2015年12月31日
「モダン・タイムス」1936年 2015年12月31日
「独裁者」     1940年 2015年12月31日
「殺人狂時代」   1947年 2017年12月31日
「ライムライト」  1952年 2022年12月31日

解説

【古い映画作品の著作権の存続期間】

映画の著作権は公表後50年で消滅していました(平成15年改正前著作権法54条1項)。平成15年改正によって保護期間が延長されましたが、1953年以前の作品は保護期間の延長の適用がなく、すでに著作権は消滅しているという解釈がなされていました。

実際「ローマの休日」などの1953年作品がこの保護期間の延長を受けるか否かが争われ、映画の著作権者側が敗訴した事件は記憶に新しいところです。

本件の9作品は、1952年という一番遅い公開「ライムライト」も2002年に権利が消滅しているという解釈も成り立ちうるものであり、被告もこれに基づき、DVDの販売を行なっていました。

【本件での判断の手法~なぜ古い作品の存続期間が延びたのか】

ところが、本件では、原告は、著作者の認定の問題を取り上げて、著作権の存続期間の再構成を図りました。以下、やや複雑な法適用の問題ですがご勘弁ください。

簡単にまとめると、著作権の存続期間の認定過程は、以下のとおりです。

1)チャップリンが著作者であると認定(*1)

2)旧法と現行法の適用結果の比較

 旧著作権法(*2) 平成15年改正前法
  ↓
 著作者の生存間及びその死後38年間 公表後50年
  ↓
チャップリン没後38年の2015年 遅くとも2002年

著作権法附則第7条(*3)により、長い方を適用→2015年

3)平成15年改正後著作権法54条1項の適用(*4)

公表後70年経過した期間が2015年より長い場合、そち
らを適用→「殺人狂時代」「ライムライト」についてはさら
に延長

(*1)本件では、クレジットの表示や、映画作品の全体的形成への関与から、チャップリン個人が著作者であることが明らかとされました。

(*2)旧法3条及び52条1項は、当該著作物の著作権存続期間について、著作者の生存間及びその死後38年間と定めていました。そして、昭和46年改正前の著作権法では、映画の著作物の著作権存続期間について「旧法22条ノ3により、活動写真術又はこれと類似の方法により製作した著作物として、独創性を有するものについては、旧法3条ないし6条及び9条の規定が適用され」るとされていました。

(*3)著作権法附則第7条は、「この法律の施行前に公表された著作物の著作権の存続期間については、当該著作物の旧法による著作権の存続期間が新法第2章第4節の規定による期間より長いときは、なお従前の例による。」としていました。

(*4)平成15年改正法が施行された平成16年1月1日において著作権が存する著作物には、著作権法附則2条によって平成15年改正後著作権法54条1項が適用され、存続期間は「公表後70年」となります。

【ビジネス上の留意点】

裁判所は、格安DVD販売業者の過失の有無を認定する部分で「パブリックドメインとなった映画の複製、頒布を業として行っている……事業を行う者としては、自らが取り扱う映画の著作権の存続期間が満了したものであるかについて、十分調査する義務を負っているものと解するのが相当であるところ、……被告らは、そのような調査をせず、本件9作品の著作権の存続期間が満了したものと軽信し、本件商品及DVD等……の複製及び頒布を行ったものと認められ」としました。

本判例は、単に古い作品だからといって映画作品を商品化することのリスクを明らかにしました。保護期間を終えた著作物を利用しようとする際には、単なる公表年だけの調査では足りない場合があるということになります。この点、何にせよ知的財産権等がからむ問題では、場合によっては専門家の手を借りるなどした十分な調査が必要となるでしょう。



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