2010-06-16 「SIDAMO」商標事件と記述的商標

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1 今回の判例  「SIDAMO」商標事件と記述的商標用

知財高裁 平成22年3月29日判決

原告であるエチオピア連邦民主共和国(X国)は、指定商品を「コーヒー、コーヒー豆」とする商標「SIDAMO」(「本件商標」)について商標登録を取得したところ、被告である全日本コーヒー協会が、当該商標登録の無効審判請求をしました。

特許庁は、(1)本件商標は、エチオピア国内のコーヒーの産地であるシダモーコーヒーエリアを表しており、商品の産地である地理的名称を用いた商標であること(商標法3条1項3号)、及び、(2)他の商品に使用された場合に、商品の品質の誤認を生ずる恐れがあること(商標法4条1項16号)を理由に、本件商標の登録は無効であると審決しました。

これを不服とした原告が、特許庁が挙げる上記(1)及び(2)の理由は誤りであるとして、無効審決の取消しを求めたのが本事案です。

2 裁判所の判断

裁判所は、X国の請求を認めました。ただし、裁判所は、特許庁の(1)の判断は取り消し、(2)については、特許庁の判断を支持しました。以下は、(1)の理由に絞って述べます。

○ 本件商標が、その指定商品である「コーヒー、コーヒー豆」について用いられた場合、コーヒー豆の産地というよりも、コーヒー又はコーヒー豆の銘柄又は種類を指すものとして用いられることが多く、本件商標は、自他識別力を有する。

○ 本件商標が、X国による品質管理の下でエチオピアから輸出されたコーヒー豆又はそれによって製造されたコーヒーについて用いられている限り、かつ、商標権者がX国である限り、その独占使用を認めるのが公益上不適当でもない。

3 解説

(1)商標の不登録事由:記述的商標

商標法3条1項各号は、登録に適さない商標を列挙していますが、本件で問題となったのは同項3号の「商品の産地、販売地、品質、その役務の提供の場所、質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」です。

それは、このような商標を登録し独占使用を認めてしまうと、取引に関係する人たちが誰でも使用する必要がある、産地、販売地、その他の特徴を表示することが妨げられてしまいますが、そのような結果を生むような商標の独占使用を認めるのは公益上適当ではないとされているからです。

また、産地や販売地は、取引上普通に使用されるものですので、これらを商標として使用しても、多くの場合、自分の商品を他の商品から識別する機能(「自他商品識別力」)に欠け、結果として商標としての機能を果たさない可能性も高いからです。

(2)ビジネス上の留意点

今回の判決は、産地名を使用した商標であるにも関わらず、記述的商標と判断されず、登録が維持されたものでした。しかし今回の判決は、本件の事例のもとでの判断ですので、これを一般化することはできません。

商標法においては産地等を「普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は登録されないのが原則、という点は頭に入れておく必要があり、商品名の選択では、このような商標を選択することは極力避けるべきでしょう。

もっとも、ある商品について、その産地等を表す表示が消費者にアピールできると思われる場合、それらの表示を商標として組み入れたいと考えることでしょうし、それ自体は不可能ではありません。

この点、登録できない商標は、「普通に用いられる方法」で表示する標章「のみからなる」商標ですので、これらのいずれかの要件を外せば、不登録事由にはならない、ということになります。

例えば「普通に用いられる方法」と判断されないようにするためには、ロゴデザインの視覚的特徴に強い印象を持たせるようなデザインをする、といった方法が考えられます。

また、「のみからなる」という要件の適用を回避するために、他の造語・図形・記号と組み合わせることもできます。

以上のとおり、ある商品やサービスに商標(商品名)を選択する時点で、その商標について商標登録を受けられる可能性を検討し、商標法の観点も踏まえて商品名を選択することは重要であると思われます。そうしないと、いったん選択して営業努力によって信用を築いた商品名が、いざ登録されずに至り、商標の選択をやり直さなければならない、ということになりかねないからです。



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