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交通事故損害賠償の解説~物損事故 

 
このページでは、交通事故で生じた物損のうちどのような損害につき賠償を受けられるかを、ポイントを絞って解説しています。

物損に関し受けられる賠償の概要

 物損事故の場合、一般的に、以下の項目が賠償の対象となる可能性があります(すべてが認められるわけではなく、賠償の対象として検討の余地がある、ということです)。

項目 概要
車両破損による損害 事故によって自車の車両が破損したことに関する損害
代車使用料 事故によって自車が使用できなくなり、代車を使用したことに関する費用
休車損害 営業用車両が事故のために使用できなくなり,当該車両を使用して操業を継続していれば得られたであろう営業利益
物損と慰謝料 物損についても慰謝料の支払を求める被害者の方がおられますが、物損については例外的な事情を除き慰謝料は認められていません。
その他 前記に含まれない他の損害

 以下、主要な項目について簡単にご説明します。


車両破損による損害

 ここでは、交通事故による車両損害についての各項目について解説します。

修理費

 修理費は、文字どおり、事故により車両等に受けた損傷に対する修理に必要となる費用のことをいいます。

 修理費については、当該事故から受けた損傷として必要性・相当性の認められる範囲内の修理費が認められます。それで、例えばドアが板金により修復が可能な場合にはドアの取替えまでは認られません。また、塗装についても、車両全体を塗装しなければ著しく美観を損なう等の特別の事情がない限り、部分塗装の範囲しか損害と認めないというのが、裁判実務の考え方です。

 なお、修理が不可能な場合等は、以下に述べる全損として考えます。

車両の全損の場合

 事故による車両の損壊がひどく、いわゆる廃車となり、修理が不可能な場合を物理的な全損といい、物理的に修理が可能であっても、見積もられる修理費用が当該車両の時価額(消費税相当額を含む)に買替諸費用を加えた金額を著しく上回る場合を経済的全損といいます。

 これらの場合に補償される損害額は、原則として、当該車両の時価(市場価格)とするのが、裁判実務の考え方です。なお、これに加えて、買替費用を含めることを認めたケースもあります。

 なお、車両が物理的に全損かどうかは客観的に明らかになることがほとんどですが、経済的全損か否かは車両の時価の評価にかかることになります。この点、被害車両の時価額を算定することは必ずしも容易ではありません。裁判上の鑑定による場合もあれば、オートガイド自動車価格月報(いわゆる「レッドブック」)や中古車価格ガイドブック(いわゆる「イエローブック」)を参考にする場合もありますし、(財)日本自動車査定協会の査定を参考にする場合もあります。

 中古車市場における流通がほとんどないために、客観的な市場価格の認定が困難な場合には、購入価格から減価償却により時価を算定する方式をとる場合もあります。

評価損

 被害車両が経済的全損とはならず、修理が相当とされた場合でも、修理を行った後の車両について、被害車両の損傷が車体の骨格・構造部分に及んでいて、修理をしてもなお車としての機能が完全に修復しない場合や、外観についても完全に修復できないといった場合、事故前と比較して価格の減少があると判断して評価損が認められる場合があります。

 また、仮に修理によって被害車両の機能、外観が回復したとしても、事故歴、修復歴のために商品価値が下落することが一般的であるとして、評価損が認められる場合もあります。


代車使用料

 被害車両を修理するために相当な修理期間や、全損の場合の買替期間中について、レンタカー使用等によって代車を利用した場合については、多くのケースで代車使用料が認められています。ただし、①代車を利用する必要性と、②認められる期間、③代車の種類(グレード)について注意が必要です。以下ポイントを解説します。

代車の必要性

  事故により、車両が使用できないといっても、常に代車の費用が認められるわけではなく、被害者に代車使用の必要性が認められることが必要であると考えられます。

 具体的には、被害車両が営業車である場合や、通勤に使用されていて合理的な代替手段がないといった場合があげられます。一般的な感覚としては、「事故で車両が修理中で乗れないのだから、代車使用料当然請求できる。」と考えられがちですが、必ずしもそうではありませんので注意が必要です。

 こうした必要性が認められないときには、仮に被害者自身で代車を使用し費用負担をしていたとしても、個別的な事情に応じて、公共交通機関の料金やせいぜいタクシー料金程度がその都度の損害として認められるにとどまる可能性があります。

 ある裁判例では、被害車両は通勤で使用されていたものでしたが、被害者は、被害車両の他に普通自動車、軽トラック、原付自転車を保有していたということで、代車使用の必要性が否定されたものがあります。

認められる期間

 代車使用の期間については、個々の事情によって異なりますが、多くの裁判例によると、修理の場合の代車使用期間は、約2週間から1ヶ月程度の範囲内のものが多いように思われます。また、買替の場合であっても、せいぜい1ヶ月程度とされているようです。

 例外的な裁判例としては、外国製の車両のために国産車と比し修理期間が多く必要とされたもの等については、上記より長期の期間について代車使用料を認めたものがあります。

代車の種類(グレード)

 修理中の被害車両が高級車だからといって、必ずしも、代車も高級車を借りることが認められるわけではありません。この点でも、高級車の代車を借りるには、その必要性が認められる必があります。

 例えば、被害車両を営業車として使用していたケースで、顧客を高級車に乗せる必要がある営業内容の場合、代車も高級車であることが必要であるとして、これが認められる可能性があります。しかしそうした場合でも、同等の車両の代車使用料が認められるとは限りません。例えばある裁判例は、キャデラックリムジンやBMW750の代車として、同種の高級外車を代車として利用したとしても、裁判所は「国産高級車で十分代替できる」として、実際の代車使用料より低廉な、国産高級車のレンタル料(日額2万円から2万5000円程度)に相当な使用期間を乗じたものを認定するにとどめています。


休車損害

 被害車両が営業車(緑ナンバー等)の場合に、相当な買替期間もしくは修理期間について、営業主が被害車両を使用することができないため、営業損害が発生した場合に、その損害のことを、実務上、「休車損害」といいます。この休車損害が賠償として認められる場合があります。

 休車損害が認められるためには、実際に被害者に営業損害が発生していることが必要です。また、被害者(営業主)が、被害車両の代替となる遊休車を有していないことも必要です。例えば、タクシー会社において、1台のタクシーが事故の修理のため一定期間稼働できなかったとしても、当該タクシー会社に、代替となる遊休車(稼働率が低い車両)が余っていたような場合は、休車損害が認められる可能性は低くなります。


物損と慰謝料

 事故の被害者にとっては受け入れがたく思われる方が多いかもしれませんが、原則として、物損にかかる慰謝料は認められない場合がほとんどです。

 慰謝料とはそもそも、精神的な苦痛を慰謝するために支払われるものですが、物損に関連する慰謝料について、裁判実務の考え方は、「財産的権利を侵害された場合(物損の場合)に慰謝料が認められるには、被害者の愛情利益や精神的平穏を強く害するような特段の事情が存することが必要である。」としています。

 例外的に慰謝料を認めている裁判例としては、深夜、大型トラックが民家に飛び込んで住人の精神的平穏を強く害したケースや、霊園の墓石等に衝突した事故で、骨壺が露出する等した事案について、墓石所有者の強い敬愛追慕の念に鑑み、これを認めたものがあります。しかし、いずれもせいぜい10万円から30万円程度が認められているにとどまり、金額的には低廉なレベルにとどまっています。


 その他の損害

登録手続関係費

 被害車両の買替が必要となった場合、多くのケースでは、その際に必要となった登録費用、車庫証明手数料、廃車の法定の手数料相当分、ディーラーの報酬部分(登録手数料、車庫証明手数料、納車手数料、廃車手数料)のうち相当額、及び自動車取得税が認められています。また、被害車両の未経過期間の自動車重量税も損害として認められています。

 他方、被害車両の自賠責保険料、新しく取得した車両の自賠責保険料、自動車税、自動車重量税は損害として認められません。これらは基本的に、自動車を保有することについて必要となる出費であり、自動車を買替えることについての出費ではないと考えられるためです。

ペットに関する損害

 法律上のタテマエは、ペットは「物」であって基本的には物損として扱われてきました。可愛がってきたペットについては、家族同然の存在と感じる人が多くいることは事実です。こうした方々にとってそのようなペットを交通事故によって奪われることは本当につらいと感じるものであり、多くの裁判例も、ペットに関する損害の多くを認める傾向にあるといえます。

 具体的には、ペットの治療の費用、死亡した場合の財産的損害、葬儀費用や慰謝料等が考えられます。ただし、ペットが法的には物損であることは基本的に変わりありませんので、例えば、ペットの治療費については、その治療費がペットの時価相当額を大きく上回るような場合には、時価相当額に限られるか、又は社会通念上相当といえる範囲で認めれられる事が多いと思われます。

 また、慰謝料についても、ペットが死亡したとか、重い障害を負った場合には認められることがあります。

他の雑費

 以上のほか、以下に述べる費用等は、損害として認められる場合があります。

[1] レッカー代、被害車両の引き上げ費用

事故により、走行不能となった車両の移動のために要した費用等をいいます。

[2] 保管料

修理が相当か、全損かを判断する間、被害車両を修理工場に保管していたその期間について発生する費用です。

[3] 時価査定料・見積費用等

[4] 廃車料・車両処分費等

全損の被害車両の処分にかかる費用です。

[5] その他  

通信費用、代替車整備費用、代替車エンジン調整費、代替車看板文字代、荷台・クレーンの載せ替え費用、交通事故証明交付手数料などが、損害として認められる場合があります(もちろん、個々の事案によっては、認められない場合もあります。)。


ご注意事項

本ページの内容は、執筆時点で有効な法令・法解釈・基準に基づいており、執筆後の法改正その他の事情の変化に対応していないことがありますので、くれぐれもご注意ください。


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