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後遺障害解説~口に関する後遺障害 

 
このページでは、交通事故の被害によって残ってしまう場合のある後遺障害のうち、口(咀嚼、言語、歯牙等)に関する後遺障害の内容・留意点について、ポイントを絞って解説します。

 
 口の後遺障害については、大きく分けると、[1]咀嚼(そしゃく)の機能障害、 [2]言語の機能障害、及び[3]歯牙障害があります。

 
 [1]の咀嚼の機能障害においては、舌の異常や、嚥下障害(咀嚼されたものを飲み込む際の障害)、味覚障害も認定の対象として判断します。 以下、各障害の内容と認定基準について解説します。

咀嚼の機能障害と後遺障害等級認定

咀嚼の機能障害と後遺障害認定基準

 咀嚼の機能障害については、言語機能障害と共通の以下の認定基準に従い、上下の歯 列のかみ合わせや配列状態、下あごの開閉運動等を総合的に考慮して認定していきま す。

[1] 第1級2号

咀嚼及び言語の機能を廃したものをいいます。

[2] 第3級2号

咀嚼又は言語の機能を廃したものをいいます。

[3] 第4級2号

咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すものをいいます。

[4] 第6級2号

咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すものをいいます。

[5] 第9級6号

咀嚼及び言語の機能に障害を残すものをいいます。

[6] 第10級3号

咀嚼又は言語の機能に障害を残すものをいいます。

各基準の当てはめ方

 前記基準の当てはめ方について若干説明します。ぴったりと当てはまる組み合わせがない場合は、基本的に併合の方法を用います。

 例えば、咀嚼機能は「著しい障害」(6級)で、言語機能は「単なる障害」(10級)の場合は、併合して5級相当となります。

 しかし、咀嚼の機能を廃し(3級)、さらに言語の機能に著しい障害を残す場合(6 級)は、併合の原則を機械的に当てはめると1級相当となってしまいます。しかし、この場合は、1級2号として設 けられている「咀嚼及び言語の機能を廃したもの」の基準には満たない(言語機能の 方は廃していない)にもかかわらず1級の認定がなされたことになり、矛盾すること になってしまいます。この場合、併合により得られた等級のひとつ下位の2級相当とされます。

各基準の内容

 以下、各基準の具体的内容について説明します。

 「咀嚼機能を廃したもの」とは、流動食以外は摂取できないものをいいます。

 「咀嚼機能に著しい障害を残すもの」とは、お粥か、これに準じる程度の飲食物以外は摂取できないものをいいます。

 「咀嚼機能に障害を残すもの」とは、固形食物の中に咀嚼ができないものがあること、または咀嚼が十分にできないものがあり、そのことが医学的に確認できる場合をいいます。

 例えば、ご飯や煮魚など比較的柔らかいものは咀嚼できるが、たくあんや ピーナッツ等の一定の堅さのものに咀嚼できないものがある場合、または咀嚼が十分 にできないものがある場合をいいます。

 なお、上記の認定基準には該当しないものの、開口障害等(開口障害、不正咬合、咀 嚼にかかる筋肉の脆弱化等)を理由として、咀嚼に相当時間を要する場合は、12級 相当の認定を受ける可能性があります。

 この咀嚼に相当時間を要する場合とは、日常 生活において概ね咀嚼はできるものの、食物によっては咀嚼に相当の時間を要するこ とがあることをいいます。

舌・嚥下・味覚障害と後遺障害等級認定

舌の異常

 舌の異常については、障害の程度に応じて、上記の咀嚼機能障害にかかる等級に準じて、相当等級を認定し ます。

嚥下障害

 この点も、直接的な認定基準がないため、上記の咀嚼機能障害にかかる等級に準じ て、相当等級を認定します。

 嚥下の機能を廃したものは3級相当、嚥下の機能に著しい障害を残すものは6級相 当、また、嚥下の機能に障害を残すものは10級相当となります。

 味覚異常

 舌の損傷や頭部外傷、あご周辺の組織損傷によって生じる味覚障害については、味覚 脱失については12級相当、味覚減退については14級相当とされます。

言語の機能障害と後遺障害等級認定

 言語の機能障害と後遺障害認定の考え方

 人が発する声につき言語を形成する語音には、「あいうえお」の母音と、それ以外の子音があります。また、子音を分類すると、以下の4種類があります。

[1] 口唇音

ま行音、ぱ行音、ば行音、わ行音、ふ

[2] 歯舌音

な行音、た行音、だ行音、ら行音、しゅ、し、ざ行音、 じゅ

[3] 口蓋音

か行音、が行音、や行音、ひ、にゅ、ぎゅ、ん

[4] 咽頭音

は行音

 そして、これらの種類のうち、発音が不能になった種類数に応じて認定されます。 発音不能とは、例えば口唇音では、ま行音だけを発音できない場合をいうのではな く、その他ぱ行音やば行音など、同種類として挙げられているすべての音が発音でき ないことをいいます。

言語の機能障害と認定基準

 言語の機能障害については、咀嚼機能障害と共通の以下の認定基準に従い、上の発音不能の種類数を考慮して認定していきます。

 上の基準のうち、用語の意味は以下のとおりです。

「言語の機能を廃したもの」とは上記[1]から[4]までの4種のうち、3種以上の発音不能のものをいいます。

「言語の機能に著しい障害を残すもの」とは、4種の語音のうち2種の発音 不能のもの、又は綴音(ある音と他の音とが統合して成った音)の機能に障害があ るため、言語のみを用いては意思を疎通することができないものをいいます。

「言語の機能に障害を残すもの」とは、4種の語音のうち、1種の発音不能 のものをいいます。

 なお、かすれ声については、その程度が著しいものについては、12級相当 として認定される可能性があります。

 歯牙障害と後遺障害等級認定

 歯牙障害と認定基準

 歯牙障害とは、文字どおり歯と牙にかかる障害ですが、牙は人間では犬歯 を表しますので、つまり、歯を欠損することにかかる障害となります。

 歯牙障害にかかる認定基準は以下のとおりです。

[1] 第10級4号

14歯以上に対し歯科補綴を加えたものをいいます。

[2] 第11級4号

10歯以上に対し歯科補綴を加えたものをいいます。

[3] 第12級3号

7歯以上に対し歯科補綴を加えたものをいいます。

[4] 第13級5号

5歯以上に対し歯科補綴を加えたものをいいます。

[4] 第14級2号

3歯以上に対し歯科補綴を加えたものをいいます。

 歯牙障害に関する留意点

 「歯科補綴を加えたもの」とは、歯を喪失したものや、著しく欠損したも の(歯冠部、つまり歯茎から出ていて客観的に見える歯の体積4分の3以上を欠損し たもの)について、補綴(ほてつ。おぎないつづること)したものをいいます。

 な お、これらには、怪我をした時点では歯の喪失や著しい欠損には該当しないもので あっても、治療の際に抜歯したものや、歯科技工上、残存する歯冠部の一部を切除し なければならず、その結果歯冠部の大部分を欠損したものと同等な状態になった場合 を含みます。

 認定の対象とされる歯について、第三大臼歯(親知らず)は対象外です。

 乳歯も原則対象外です。しかし乳歯については、永久歯が生えないという医師の 証明があれば認定の対象となります。

ご注意事項

本ページの内容は、執筆時点で有効な法令・法解釈・基準に基づいており、執筆後の法改正その他の事情の変化に対応していないことがありますので、くれぐれもご注意ください。

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