2015-08-11 業務上の指導といわゆる「パワハラ」

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1 今回の判例  業務上の指導といわゆる「パワハラ」

福井地裁平成26年11月28日判決

 A氏は、平成22年4月、高卒後B社に入社し、消防設備や消火器等の保守点検業務に従事していました。

 しかし、同年12月6日、A氏が、自宅の2階の自室において自殺したことがは母親によって発見されました。

2 裁判所の判断

 裁判所は、以下のとおり判断し、会社の責任を認めました。

● 「学ぶ気持ちはあるのか、いつまで新人気分」「詐欺と同じ、3万円を泥棒したのと同じ」「待っていた時間が無駄になった」「耳が遠いんじゃないか」「嘘をつくような奴に点検をまかせられるわけがない」「点検もしてないのに自分をよく見せようとしている」「人の話をきかずに行動、動くのがのろい」「何で自分が怒られているのかすら分かっていない」「反省しているふりをしているだけ」「嘘を平気でつく、そんなやつ会社に要るか」「嘘をついたのに悪気もない」「会社辞めたほうが皆のためになるんじゃないか、辞めてもどうせ再就職はできないだろ、自分を変えるつもりがないのならば家でケーキ作れば、どうせ働きたくないんだろう」「死んでしまえばいい」「辞めればいい」「今日使った無駄な時間を返してくれ」といった上司の発言は、仕事上のミスに対する叱責の域を超えて、A氏の人格を否定し、威迫するものである。

● これらの言葉が経験豊かな上司から入社後1年にも満たない社員に対してなされたことを考えると典型的なパワーハラスメントといわざるを得ない。

● A氏は、高卒の新入社員であり、作業に当たっての緊張感や上司からの指導を受けた際の圧迫感はとりわけ大きいものであるから、上司による人格を否定する言動を執拗に繰り返し受け続けてきた心理的負荷は極めて強度であり、上司の言動はA氏に精神障害を発症させるに足りるものであった。

● 上司のA氏に対する不法行為は、外形上は業務上の指導としてなされたものであり、会社も責任を負う。

3 解説

(1) 違法となる「パワハラ」の定義

 近年は、職場における「パワーハラスメント」(「パワハラ」)が問題視され、社会的な問題ともなっています。そもそもこの「パワハラ」とは何でしょうか。

 この点、厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」によると、「パワハラ」とは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」とされています。

 具体的には、暴力行為、脅迫・暴言等の精神的な攻撃、隔離・仲間外し・無視といった人間関係からの切り離し、業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害といった過大な要求のほか、業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないことといったものも含まれます。また、私的なことに過度に立ち入ることもパワハラに含まれることがあるとされています。

(2) 指導・叱咤激励とパワハラの関係

 ここで難しいのは、どこまでが「指導」「叱咤激励」となるのか、どこからが違法な「パワハラ」なのか、という点です。一般的に、かつ明確で単純な一つの線を引くことは難しいですが、ざっくりといえば「業務の適正な範囲」にあるか否かといえるかと思われます。

 この点例えば、「死ね」「給料泥棒」「うちにはいらない」「早く辞めろ」「能なし」「消えてくれ」といった、発言の内容自体から、明らかに人格攻撃・人格侵害とみられる発言は、それだけでパワハラと評価される可能性が高いと考えられます。

 それは、業務上の「指導」が目的であることを考えれば、業務上の問題点の改善につながるよう、問題点とその改善方法について指導を行えば足り、これを超えて相手方の人格自体を攻撃する必要はないからです。実際、本件の事案も同様の理由がパワハラを肯定する一つの大きな要素となったと思われます。

 他方、発言自体が明らかに人格攻撃とはいえないものの、厳しい叱責といえるような発言の場合は、判断は複雑です。

 まずは、部下の問題行動の内容や程度が関係します。部下の問題行動が重大・重要であって、繰り返されている場合には厳しい叱責も必要性の範囲内とされる場合もあると思われます。もっとも、ミスが明らかになった時点では看過できない重要なものだと思っても、よく調べてみるとそれほど重大ではなかったとか、部下だけの責任とはいえなかったということもありえますから、部下の「落ち度」が、本当に厳しい指導をしなければならないものといえるか、可能なら少し時間を置いて冷静になって今一度考えるのは有益かもしれません。

 また、人間である以上「つい言いすぎてしまう」ということは誰もあるものです。しかし、例えば部下が行った1回の問題行動について、長期間、執拗に「厳しい叱責」が繰り返されるという場合、これがパワハラと評価される要素になりえます。それで、過去に起こったことについて叱責を繰り返したり、ひどい嫌味や悪意のある皮肉を繰り返したりするような言動も避けることは必要かと思われます。

 さらに、指導の具体性も関係があります。精神論に終始し、「根性がない。やる気出せ」「お前が何とかしろ」「お前は小学校も出ていないのか」といった抽象的・精神論的・皮肉を交えての指導は避け、業務上の具体的な問題点の改善につながる具体的な指導を心がける必要があると考えられます。

 なお、以上は考慮すべき要素の一部であり、上は一般的な基準を申し上げるものではありませんが、ここで申し上げた視点が、パワハラ防止・改善による働きやすい職場の実現と、適切な指導・教育による社員の能力との調和を図る上で参考になれば幸いです。



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