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1.5.4 ありふれた氏又は名称等~登録できない商標

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商標法3条1項4号の規定の概要

規定の趣旨

 商標法は、一定の場合に商標の登録ができない事由(不登録事由)を定めており、その中の一つが「ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」(商標法3条1項4号)です。

 ある商標の登録が認められると、その商標については独占が認められ、他者がこれと類似する商標を使用することができなくなります。この点、例えば「佐藤」のようにありふれた氏について商標登録が認められてしまうと、他の事業者が自己の名称を使用できなくなり、社会的に見ても非常に不都合な事態が生じます。

 またこういった、ありふれた氏を普通に用いられる方法で表示した商標を使用しても、需要者から見れば、他の事業者の商品やサービスと区別できず、商標の本来的機能たる自他商品識別力を発揮できないともいえます。

 そのため商標法は、「ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」を不登録事由としているわけです。

3条1項4号に該当する場合

 ただし、3条1項4号に該当するのは、 「ありふれた氏又は名称」につき、「普通に用いられる方法で表示」したものであって、かつそれ以外の標章を含まない場合です。

 言い換えれば、「ありふれた氏又は名称」であっても、「普通に用いられる方法」ではない方法での表示であれば、3条1項4号には該当しません。また、「普通に用いられる方法で表示」したものであっても、商標が他のものとの組み合わせ(造語や図形など)であれば、同様に3条1項4号には該当しない、ということになります。

「ありふれた氏又は名称」とは

 では、「ありふれた」とは何を意味するのでしょうか。これは、原則として、同種の氏又は名称が多数存在するものをいうとされます。例えば、50音別電話帳等においてかなりの数を発見することができる氏又は名称はそうであると考えられています。

「普通に用いられる方法で表示する」とは

 これは、取引者において一般的に使用されている書体及び構成で表示するものとされます。この点、ありふれた氏又は名称をローマ字又は仮名文字で表示するものは、通常、「普通に用いられる方法で表示する」ものに該当すると判断されます。

 他方、取引者において一般的に使用されていない漢字(当て字)で表示するものは「普通に用いられる方法で表示する」に該当しないと判断されます。

3条1項4号の例

肯定例

 3条1項4号に該当するとされた例としては、以下のようなものがあります。

「品川 L.P.ガス」 (昭和42年7月31日審決)

 特許庁は、「L.P.ガス」の文字を一体としてみれば液化石油ガスを主成分とする液化石油系炭化水素類を表すことは顕著な事実であり、「品川」の文字が氏として普通一般に使用されていることは東京都の電話番号簿等の刊行物の記載に徴しても明白な事実である等の理由から、同号に該当すると判断しました。

「西沢スキー」 (昭和54年9月20日審決)

 特許庁は、「西沢」は、東京都における電話帳に多数掲載されていることからみてもありふれたものであり、後半部の「スキー」の文字は、指定商品との関係で「スキー用具」を表したものと容易に理解、認識し得るから、同号に該当すると判断しました。

「松むら饅頭」 (昭和55年4月3日審決)

 特許庁は、「松むら」の文字が、氏姓としての「松村」以外の特定の意味合いが生ずる語とは認められず、「松村」は、東京23区50音別電話帳における記載に徴し、ありふれた氏姓であることは明らかである、と判断しました。

否定例

 3条1項4号に該当しないとされた例としては、以下のようなものがあります。

「朝くら」 (昭和58年12月16日審決)

 特許庁は、日常の取引において氏姓を表す場合、一般に全体の文字を漢字、仮名文字、ローマ字をもって表示されているのが実情である、とし、上の使用方法は、普通に用いられる方法とは異なる構成にかかるものである、と判断しました。

「森田ゴルフ株式会社」(東京高裁平成7年6月13日判決)

 裁判所は、「森田」という氏がありふれたものであり、「ゴルフ」が球技の一つを表す普通名詞であるとしながら、このことから当然に本件商標が同号の商標に該当するとするのは相当でなく、「森田」と「ゴルフ」が結合した「森田ゴルフ」の表示を基準として識別性を判断すべき、と述べました。

「藤野屋画廊」 (平成11年6月30日審決)

 特許庁は、同号の「ありふれた名称」には、当該名称全体のものとしてありふれたものが該当すると解すべきであり、当該名称を構成する各要素的部分がありふれているものからなる名称までも同号の「ありふれた名称」に該当すると解することは相当でなく、本願商標については「藤野屋画廊」が世間一般にありふれて採択、使用されている名称とは認め難いものである、と判断しました。

「ツムラ」 (平成19年2月22日審決)

 特許庁は、本願商標は、下記の構成よりなるところ、後半部の「U」「R」「A」の文字部分が、全体を一筆書きのように連結して一体として表した特徴を有する特異な形状よりなるものといい得るから、全体として見た場合、普通に用いられる方法で表記してなるものと直ちにはいえず、十分に自他商品の識別標識としての機能を果たし得ると判断しました。
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「有沢製作所」 (平成22年11月18日審決)

 特許庁は、「ありふれた名称」とは、当該名称全体として多数存在するものをいうと解すべきであって、「有沢」の文字と「製作所」の文字とが結合されたものについて、「有沢製作所」の名称の法人等の組織が、世間一般に、ありふれて存在しているとの事実は発見できなかった、と判断しました。

「亀山蝋燭」 (平成23年11月16日審決)

 特許庁は、同号の「ありふれた氏」に該当するか否かは、その商標全体として「ありふれた氏」に該当するか否かによって判断すべきであり、本願商標についてはありふれた氏に該当するものでないこと明らかであり、また、「亀山蝋燭」が一般にありふれた名称として採択、使用されている事実は発見できなかった、と判断しました。

 

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