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1.5.3 記述的商標~登録できない商標

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記述的商標の概要

記述的商標とは何か

 商標法は、一定の場合に商標の登録ができない事由(不登録事由)を定めており、その中の一つがいわゆる「記述的商標」、すなわち、「その商品の品質などを普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」(商標法3条1項3号)です。

 もう少し正確に述べると、「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」と定められています。

記述的商標が不登録事由とされている趣旨

 ある商標の登録と独占が認められるのは、それが、商品やサービスの「印」として、自他商品識別機能や出所表示機能を持っているからです。この点、記述的商標は、取引上普通に使用されるので一般的に自他識別力がないと考えられています。そのため商標法は、不登録事由としています。また、このような記述的商標は、公益的観点からも一私人に独占させるのは適切でないと考えられ、これも不登録事由とされている理由に含まれます。

記述的商標の例

記述的商標の典型例

 記述的商標としては、例えば、以下のような例があります。

産地、販売地の表示

指定商品「菓子」について「東京」の商標

商品の品質の表示
  • 指定商品「シャツ」について「特別仕立」の商標
  • 「新」「インスタント」「安全」
  • 商品の色を表示する「レッド」「ブルー」
  • 写実的に表現した図形
  • 「スーパー」「ソフト」「フレッシュ」「ミニ」
原材料、効能、用途、数量、形状
  • 指定役務「飲食物の提供」で「東京銀座」
  • 指定商品「清酒」で「吟醸」
  • 指定商品「せんべい」で「網焼き」
  • 指定役務「マッサージ」で「体回復」
役務提供の質
  • 指定役務「医業」で「外科」の商標
  • 「フランス料理」「イタリア料理」「北京料理」のように、外国の国家名、地理的名称が特定の料理の表示
  • 裁判例・審決例において記述的商標と認定された例

    「本生」知財高裁平成19年3月28日判決

    【商標】

    「本生」

    【指定商品】

    熱処理をしていないビール風味の麦芽発泡酒

    【裁判所の判断】

    本願商標は、これを本願指定商品中『熱処理をしていないビール風味の麦芽発泡酒』に使用しても、これに接する需要者をして、単に商品の品質を表示したものと認識させるにすぎず、商標法3条1項3号に該当する。

    「ほっとレモン」知財高裁平成25年8月28日判決

    【商標】

    kijutu01

    【指定商品】

    第32類「レモンを加味した清涼飲料、レモンを加味した果実飲料」

    【裁判所の判断】

    • 、片仮名「レモン」部分は、果実の「レモン」又は「レモン果汁を入れた飲料又はレモン風味の味付けをした飲料」であることを意味し、平仮名「ほっと」部分は、「熱い」、「温かい」を意味すると理解するのが自然である
    • 輪郭部分については、上辺中央を上方に湾曲させた輪郭線により囲み枠を設けることは、清涼飲料水等では比較的多く用いられており、需要者に対し強い印象を与えるものではない。
    • 「ほっとレモン」の書体は通常の工夫の範囲を超えるものとはいえない。
    「ネットワークおまかせサポート」知財高裁平成26年8月6日判決

    【商標】

    本願商標「ネットワークおまかせサポート」

    【指定役務】

    第37類「事務用機械器具の修理又は保守、電子応用機械器具の修理又は保守、電話機械器具の修理又は保守、ラジオ受信機又はテレビジョン受信機の修理、電気通信機械器具の修理又は保守ほか」

    【裁判所の判断】

    • 本願商標は、全体として「コンピューターネットワークに関する相談や接続設定の代行など、顧客が自分で判断・選択せず、他人にまかせてサポートしてもらうサービス」といった意味を有する語として認識される。
    • 本願商標は、赤色の文字を白色で縁取りした太文字体で表した文字に陰影を付するデザインであり、 当該文字を目立たせるためのものであるが、そのデザインはごく普通に用いられる一般的な表現方法であり、普通に用いられる形態であるといえる。
    • よって、本願商標は、役務(サービス)の質(内容)を表示するものとして一般に認識されるものであり、特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でなく、かつ識別力を欠く。
    「AI介護」知財高裁令和2年3月25日判決

    【商標】

    「AI介護」(標準文字 )

    【指定役務】

    第44類 美容、理容、入浴施設の提供、介護等

    【裁判所の判断】

    • 「AI」は、「人工授精」「空中迎撃機」「アムネステイインターナショナル」「鳥インフルエンザ」等の略語であることが認められるが、多数のウェブサイトや新聞には、「AI介護」に関連して、「AI介護ソフト」、「AI介護事業」、「AI介護 ロボット」などが使用され、「AI介護」からはAIを活用した介護という意味が認められる。
    • 介護の分野では、「AI」が人工知能以外の意味で使用されている例がないことなどから、本願商標「AI介護」からは、AIを活用した介護という意味合いが生ずる。
    • よって、本願商標は、「介護」という役務(サービス)の質(内容)を表示するものとして一般に認識されるものであり、識別力を欠く。

    記述的商標とならない余地があるもの

    上のとおり、記述的商となるのは、その商品や役務の品質などを普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標です。したがって、これらのいずれかの要件を回避すれば、記述的商標とはならない可能性があります。以下はその具体例です。

    品質などを間接的に表示する商標

    「迫力満点」 (登録第4697195号)

    指定商品を、カレー、シチュー又はスープのもととする前記商標は、いったんは「ボリューム感のある」等の意味合いであって単に商品の品質を表示するにすぎないとされ、登録が拒絶されました。

    しかしながら、審判で争われた結果、前記品質は間接的な暗示であるとして、登録が認められました。

    「こくうま」 (登録第5020651号)

    指定商品を、キムチとする前記商標については、無効審判が請求されましたが、登録が維持されました。

    もっとも、同商標については、出願当初の指定商品は「食用油脂、乳製品、卵、冷凍野菜、肉製品、加工水産物、加工野菜及び加工果実、豆乳、カレー・シチュー又はスープのもと、お茶漬けのり、ふりかけ、なめ物」等を指定商品として「こくうま」でした。しかし、特許庁から、商標法3条1項3号に該当する旨の拒絶理由通知を受けたため、指定商品を「キムチ」のみとする補正を行って、本件商標登録をしたという経緯がありました。

    「おくだけ緑茶消臭」 (登録第5406097号)

    指定商品を、「緑茶消臭成分を有するクッション」とする前記商標は、いったんは単に商品の品質を表示するにすぎないとされ、登録が拒絶されましたが、審判では、「その指定商品を取り扱う業界において、特定の商品の品質を表示するものとして、取引上、一般に使用されている事実を発見することができなかった」等から、当該商標が「特定の意味合いを有しない一種の造語」であるという理由で、登録が認められました。

    「生コスメ」 (登録第6117829号)

    指定商品を化粧品とする前記商標は、登録が認められました。

    「細胞セラピー」 (登録第6333395号)

    指定商品を美容、マッサージ等とする前記商標は、登録が認められました。

    「夜もパワフル」 (登録第6286863号)

    指定商品を薬剤、サプリメント等とする前記商標は、登録が認められました。

    指定商品の品質等と商標の関係が薄い場合

    「吟醸」 (登録第3281840号)

    指定商品を、せっけん類、香料類、化粧品等とする前記商標は、登録が認められました。

    「理想のトマト」 (登録第5470929号)

    指定商品を、トマトジュース,トマトを加味した清涼飲料等とする前記商標は、登録が認められました。そのほか、「理想の野菜」「理想のフルーツ」「理想の急須」等が登録を受けています。

    商品名選定の際の注意点

    商品名の選定の際には、以上のような商標法の考え方を踏まえて検討する必要があります。

    多くの場合、その商品の特徴・種類・内容を示す商標が好まれて使用されています。このネーミングは、消費者に商品・サービスの特徴を比較的短期間に記憶してもらえる効果が期待できます。それで、今まで世の中になかった画期的な技術又は機能を採用した商品である場合、同様の商品がなかったという商品の場合、商標が短期間使用される予定のものである場合には、効果的でしょう。

    ただし、上で述べたとおり、商品の性質・特徴・用途を直接示す言葉は、「記述的商標」として、登録を受けることができません。それで、ネーミングでその商品の特徴・種類・内容をうまく暗示しつつ、記述的商標と判断されることを避けるためにはそれなりの考慮が必要であり、このバランスについて判断が難しい場合があります。

    この点については、ネーミングの候補選定の段階で、弁理士・商標法を扱う弁護士に、過去の判例・審決例等からの検討をしてもらい、そのネーミングについて商標登録を受けられる可能性を踏まえた上で商品名の選定を行うことは重要といえるでしょう。

     

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