7.3 意匠権侵害の判断基準と効果

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意匠権の侵害となる場合~概要

意匠権とその侵害

 意匠権とは、意匠出願日から20年間、登録意匠及びこれに類似する意匠を独占的に実施する権利です(意匠法23条本文[カーソルを載せて条文表示])ことができます。

 したがって、意匠権者から実施の許諾を得ることなく、第三者が業として登録意匠又はこれに類似する意匠を実施する行為は、意匠権の侵害となります。

 ここでいう「実施」とは、物品の意匠であれば、物品について製造、使用、譲渡、貸渡し、輸出、輸入し、又はその譲渡若しくは貸渡しの申出などをする行為をいいます(意匠法2条2項1号[カーソルを載せて条文表示])。

意匠権侵害が成立する要件

 意匠権の侵害が成立する要件の中で、実務上問題となる大きなものを挙げれば、以下のとおりです。

  • 他者の物品と、登録意匠にかかる物品が同一又は類似であること
  • 他者の意匠と登録意匠が同一又は類似であること
  • 物品の同一性・類似性

    考え方

     他者の物品と意匠にかかる物品が同一又は類似といえるのはどのような場合でしょうか。

     この点は、物品の用途と機能で判断されます。用途も機能も同一であれば、同一物品であると判断され、用途は同一で機能が異なる場合は、類似物品であると判断されるのが原則です。

     もっとも、画一的な基準で判断されるというよりは、意匠公報や意匠分類表をもとに個別具体的に判断されます。実際の事例としては以下のようなものがあります。

    類似性肯定例~増幅器と増幅器付スピーカー

     被告の物品は、増幅器及びスピーカーという2つの機能を有するいわゆる多機能物品であるとこ ろ、増幅器の機能において原告製品と機能を共通にするものであり両物品は類似する、と判断されました(東京地裁平成19年4月18日判決)。

    類似性否定例~カラビナとカラビナ型のキーホルダー

     裁判所は、登録意匠に係る物品が岩登り用具・登山用具として使用されるのに対して,被告の商品がアルミ ニウム、メタル製のハート型の形状をしたアクセサリーであることから、物品の使用の目的、 使用の状態等が大きく相違していることが明らかであるとし、物品の類似性を否定しました(知財高裁平成17年10月31日判決)。

    意匠の同一性・類似性

    考え方

     次に、どのような場合に意匠が類似と判断されるかをご説明します。この点意匠法24条は、その判断につき「需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う」と定めています。

     具体的には、以下の手順・判断手法で判断します。

    • 類否の対象となる両意匠の基本的構成態様と具体的構成態様を認定する
    • 両意匠の「要部」を認定する。
    • 両意匠の共通点と差異点を認定する。
    • 両意匠を全体として観察する。

    具体例に基づく判断手順の例

     以下、裁判例に現れた具体例(大阪地裁平成29年2月7日判決)をもとに、裁判所が行った判断手順の例から具体的にご説明します。

    事案の概要

     原告は、美容用顔面カバー(美容フェイスマスク)の意匠権を有しているところ、一見類似する美容フェイスマスクを発売している被告に対して意匠権侵害を主張し、製造販売の差止、損害賠償の請求などをしました。

     原告の登録意匠・被告商品の標章の画像は、以下のURLをご覧ください(左:原告意匠 右:被告製品)。

    A社意匠B社製品

    基本的構成態様の認定

     まず、両意匠の基本的構成態様(意匠を大つかみに把握した態様)を認定します。

     裁判所は、両意匠の基本的構成態様として、「人の顔面の形状に合わせて略半楕円体状に立体に形成されたマスクであ り、装着時に、目、口、耳に位置する部分には孔部が、鼻に位置する部分に は、突起及び切れ込みが設けられている」と認定しました。

    具体的構成態様の認定

     次に、具体的構成態様(意匠を詳しく観察した態様)を認定します。

     詳細は省略しますが、裁判所は、両意匠につき、輪郭の形状、両目部、鼻部、耳部、口部について詳細な認定をしています。

    要部の認定

     次に、登録意匠の要部を認定します。要部とは、一般的には、看者(見る者)が最も注意を引かれる部分、重きをおくべき部分をいいます。

     要部の認定にあたっては、以下について適宜考慮します。

    • 物品の性質、目的、用途、使用態様
    • 周知意匠や公知意匠

     周知意匠や公知意匠が考慮されるのは、原告の意匠登録の出願前に存在する、周知意匠や公知意匠の部分は、需要者にとってありふれて見えるものとな り、注意を引かないし、重きが置かれない場合が多いからであると考えられています。

    具体例において要部と認定した部分

     本件において裁判所は、結論として、原告の意匠の要部としました。

    • 顔面にフィットするよう立体的に形成された美容用顔面カバーにおける鼻部 の具体的な形状
    • 耳掛け部周辺の具体的形状
    具体例において要部と認定された理由

     裁判所が上の部分を意匠の要部と認定した理由は主として以下のとおりです。

       

    • 美容用顔面カバーの用途や使用態様からすれば、女性を主とする需要者は、使用時の形状が効率よくパックするため全体的に顔にフィットする形態かどうかに注目するから、装着時に物を見る、呼吸をするなどのための目、鼻及び口の部分の形状、さらには装着のための耳掛けの形状等に注目する。
    • 公知意匠からすれば、原告の意匠の基本的構成態様は美容用顔面カバーにおいて通常考えられる形態であって新規な形態とは認められない。
    • 原告の意匠において新規で創作性の認められる部分は、輪郭の形状において、こめかみから顎上部にかけて外形に沿った凸状の筋が設けられている点、鼻部において、鼻の形状に合わせて両目付近から鼻尖部まで連続的に隆起しており、隆起部分の脇に谷折りとなる略直線を構成する点、耳部において、耳を開口部の外形に沿って凸状の筋が構成されている点という具体的構成にあるといえる。
    共通点と差異点の認定

     次に、両意匠の共通点と差異点を認定します。

     裁判所は、両意匠につき、概ね以下のとおり差異点を認定しました。

    <目部の孔> 被告:両端が尖っている 原告:横長楕円形
    <鼻梁>   被告:目部の孔から鼻尖部まで連続的に隆起し、頂点の折り込み線が鼻梁を構成
            原告:なだらかに隆起して明確な鼻梁が認識できない
    <耳・口>  被告:耳部と口部の孔がハート型 原告:楕円

    両意匠を全体として観察
    考え方

     次に、両意匠を全体として観察します。意匠の類否判断は、意匠全体を観察することを大原則とするからです。

     全体観察の結果、意匠の要部において構成態様が共通する場合は両意匠は類似すると判断されることが多く、他方、これらが異なる場合両意匠は類似しないと判断されることが多いといえます。

     また、意匠の要部において一部が共通し、一部が異なる場合には、ありふれた差異であったり、 又は看者から見て美感が同様であるため、その差異が、共通点によって与える共通の美感を凌駕しない場合は、両意匠は類似すると判断される可能性が高くなります。

    具体例における判断

     裁判所は、前記相違点から、両意匠を全体的に観察し、両者の全体的な美感を以下のように認定し、看者である需要者に与える印象は異なっているということができる、と判断しました。

    <全体的印象>被告:鼻筋の通った引き締まった顔立ちの印象
           原告:のっぺりとした印象

    意匠権侵害効果・意匠権者が行使できる権利

     意匠権の侵害があった場合、意匠権者には、どんな権利があるでしょうか。具体的には、以下の権利があります。

    差止請求

     意匠法37条に定められている権利です。簡単にいえば、意匠権の侵害行為の停止を請求するほか、侵害の予防の請求を行うことのできる権利です(意匠法37条1項[カーソルを載せて条文表示])。

     また、侵害製品の廃棄やその製造設備の除却などの請求ができる場合もあります(商標法37条2項[カーソルを載せて条文抜粋表示])。

    損害賠償請求

     意匠権侵害行為によって被った損害について賠償を求めることができる権利です。

     意匠法の特徴は、特許法や商標法などの他の法律と同様、侵害行為による損害額の算定規定を特に設けていることです(意匠法39条)。それによって、侵害行為との因果関係のある損害の立証という高いハードルを大幅に下げることができます。

     また、一般に、侵害者に対して損害賠償請求をするためには、侵害者に故意・過失が必要ですが、この点でも、侵害行為があれば過失があったものと推定する(意匠法40条本文[カーソルを載せて条文抜粋表示])とされており、立証のハードルが下がっています。

    信用回復措置請求

     意匠権者の業務上の信用を害した者に対して、意匠権者は、信用を回復するための措置を求めることができます(意匠法41条で準用する特許法106条)。

     


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