6.3 商標登録無効審判の解説

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 他社商標権の侵害の項目で述べたとおり、他社から商標権侵害の警告を受けたものの、その商標の登録には実際には無効理由があると思われる場合、登録無効審判を請求することによって当該商標の登録を無効とすることができる場合があります。

 本稿では、商標登録無効審判の詳細について、また実務的に考慮すべき点につき、審判請求人の視点と商標権者の視点から検討します。

商標登録無効審判の概要

商標登録無効審判とは

 商標登録無効審判とは、ある商標の登録に関して法律に定める無効理由がある場合に、その登録を無効とする特許庁の審判です。

 商標の登録については、出願を受けた商標につき、登録要件を審査して登録します。しかしながら、審査官の審査の限界ゆえに、常に完全な審査がされるとは限りませんから、過誤により不備のある商標権が発生してしまう場合があります。

 それで、かような不備のある商標登録を無効にする制度が、商標登録の無効審判です。

無効審判を請求できる人

 誰が商標登録無効審判を請求できるでしょうか。この点は、商標法上の条文では特に定めはありませんが、不使用取消審判の場合とは異なり、その登録商標を無効とすること(審判の結果)について利害関係を有する者である必要があると解されています。

 なおこの点で、SIDAMO事件(知財高裁平成22年3月29日判決)は、「コーヒー、コーヒー豆」を指定商品とする「SIDAMO」の商標登録の無効審判につき、請求人である「社団法人全日本コーヒー協会」について利害関係の有無が問題となりました。

 この点被請求人は、請求人がコーヒーの輸出入・販売等の営業には自ら関与しておらず、当該登録商標の使用に関与する立場にもないことから利害関係がないと主張しましたが、知財高裁は、当該商標登録の有効性が、同協会の会員(コーヒーの輸出入業者や製造業者等)にとって利害関係があること、また、同協会が国内コーヒーの消費振興事業を実施する場合等を考慮すると、利害関係を有すると判示しました。

無効審判請求の相手方

 無効審判請求の相手方(披請求人)は、商標権者です。なおこの点、商標権が共有である場合には、共有者全員を披請求人とする必要があります。

無効審判請求の期間

 請求の期間については、商標権の設定登録後であれば、原則としていつでも無効審判の請求が可能です(商標法46条1項)。商標権が期間満了等により消滅した後においても、請求することができます(46条2項)。

 しかし、一部の無効理由については除斥期間の定めがあり、こうした無効理由に基づく審判請求については、商標権設定登録日から5年いないとされています(商標法47条)。

除斥期間の定めのある無効理由の例

 除斥期間の定めのある商標の無効理由のうち主なものを挙げれば以下のとおりです。

  • 商標法3条違反(例:普通名称、慣用商標、記述的商標等)
  • 商標法4条1項8号違反(例:他人の肖像、氏名、著名な芸名等を含む商標)
  • 商標法4条1項11号~14号違反(例:登録商標と類似の商標等)
  • 商標法8条違反(先願主義違反)
  • 商標法4条1項10号、17号違反(例:他人の周知商標の類似商標等)
  • 商標法4条1項15号違反(他人の業務に係る商品・役務と混同を生ずるおそれがある商標)

 なお、前記無効理由のうち、後二者については、不正競争の目的(又は不正の目的)がある場合には除斥期間の適用はありません。

無効審判請求の理由となるもの

 無効理由については、商標法46条1項各号に列挙されており、これらに限定されています。主なものを具体的に挙げれば、以下のとおりです。

  • 登録要件(3条)違反
  • 不登録事由(4条1項)に該当する場合
  • 先願の(8条)の規定に違反する場合
  • 条約違反(46条1項2号)
  • 冒認出願(46条1項3号)
  • 後発的不登録事由として46条1項5号に定めるもの

商標登録無効審判の手続きの流れ

審判請求の手続

審判請求書の提出

 商標登録無効審判請求においては、請求人が、所定の事項を記載した審判請求書を提出します。

審判請求の範囲

 商標登録無効審判の請求においては、指定商品又は指定役務ごとの請求が可能です(商標法46条1項柱書後段)。それで、指定商品又は指定役務の一部について審判請求の対象とする場合、審判請求書には、「登録第×××××号商標は指定商品(指定役務)中、○○についての登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」といった形で記載します。

請求の理由の記載

 審判請求書の「請求の理由」の欄には、当該商標の登録が無効であるとする実質的理由について、請求人の主張・立証を具体的かつ明確に記載します。この点特許庁によれば、「請求の理由」の「項分け記載」を推奨しており、第4条第1項第11号に基づく主張の場合、記載の要領を特許庁の資料から抜粋すれば以下のとおりです。

(1) 請求の理由の要約

 無効理由にかかる主張事実及び証拠等の要点を整理した「無効理由の要約」を「請求の理由」の最初に掲げることにより、審判請求人が主張立証しようとする請求の理由の全体を明確にすることが望ましいとされています。

(2) 手続の経緯

 本件登録商標、その指定商品・役務、出願から商標権の設定の登録に至るまでの経緯(出願日、登録日等)を記載します。

(3) 引用商標

 引用商標、その指定商品・役務、出願から商標権の設定の登録に至るまでの経緯(出願日、登録日等)を記載します。

(4) 本件商標登録を無効とすべき理由

 本件商標の構成を説明し、本件商標の外観、称呼、観念等について説明します。

 次いで引用商標の構成を説明し、引用商標の外観、称呼、観念等について説明します。

 そして、本件商標と引用商標から生ずる外観、称呼及び観念の比較、両商標の指定商品の類否等を説明して、本件商標が引用商標と類似する理由を明らかにします。

 また、引用商標の周知・著名性、取引の実情等について主張するときは、証拠の提示とともに具体的かつ明確に記載します。

(5) むすび

 結論として、本件商標登録は、商標法第○条第○項第○号に違反してされたものであるから、無効とすべきものである旨を記載します。

無効審判の審理

無効審判の審理主体

 商標登録無効審判は、複数の審判官の合議体で審理されます。

審理の流れ

 無効審判の審理については、書面での審理又は口頭審理によってなされます。

 無効審判の請求があると、審判番号が付与され、商標権者側が、審判請求書の副本と審判番号の通知を受け取ります。そして、指定された期間内に答弁書を提出します。

 これに対して、請求人側から、弁駁書を提出して反論を行うことがあります。

審理の終結と審決

 審理が終結すると、審理終結通知が通知されます。その後審決が送達され、無効審判は終了します。

 無効審判の審決については、認容審決(無効を認めるもの)、棄却審決(無効を認めないもの)、却下審決(請求が不適法である場合)があります。

無効審決確定の効果

請求認容審決の場合

商標登録の遡及的消滅の原則

 商標登録を無効にする旨の審決が確定した場合、当該商標権は初めから存在しなかったものとみなされます(商標法46条の2第1項本文)。

 当該商標権が最初から存在しなくなるとみなされるため、これに付随する権利も消滅することになります。例を挙げれば、当該商標にかかる専用使用権(商標法30条)、通常使用権(商標法31条)等です。

遡及効の例外~後発的無効の場合

 以上が原則ですが、後発的無効の場合には、前記遡及効は限定されます。

 すなわち、当該商標の登録が、後発的無効理由に該当するに至った時点から消滅します(商標法46条の2第1項ただし書)。また、後発的無効理由に該当するに至った時点を特定できない場合、審判請求登録の日から消滅します(商標法46条の2第2項)。

中用権
中用権とは

 以上に加え、「中用権」という権利が発生します(商標法33条)。

 中用権とは、商標登録から無効審判請求の登録までの間に、善意で登録商標を使用してきた者に、これまで使用してきた商標の使用を認める権利のことをいいます。

中用権の要件

 中用権は、おおまかにいうと以下の要件があるときに発生します。

  • 無効審判請求の登録後も使用を継続していること
  • 登録商標を使用していた者が、商標登録から無効審判請求の登録までの間無効理由に該当することを知らないで当該登録商標を使用していたこと
  • 当該使用が、日本国内において、指定商品・指定役務・これらに類似する商品・役務について使用されていたこと
  • 当該商標につき、無効審判請求の登録時より前に、周知性を獲得していること
中用権の内容

中用権が認められると、無効審判確定後も、当該登録商標を、従前のとおりの商品・役務について使用することができます。ただし、この場合商標権者等の請求があれば、商標権者等に対し、相当の対価を支払う必要があり(商標法33条2項)、かつ、混同防止のための表示をする必要があります(商標法33条3項、32条2項)。

請求棄却審決の場合

 この場合、当然のことながら当該商標の登録は維持されます。

 また、「一事不再理」が適用されます(特許法167条の準用)。つまり、同一の当事者(請求人)が、同一の事実及び同一の証拠に基づいて無効審判を請求することができなくなります。

 なおこの点、従前はこの「一事不再理」は、「第三者効」又は「対世効」といって、「何人も」(誰でも)、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができないという定めでしたが、平成23年の特許法改正で当該「第三者効」は廃止されました。

審決に対する不服申立手段~審決取消訴訟

審決に対する不服申立手段としての訴訟

 審決に不服を有する当事者は、その取消しを求めて審決取消訴訟を提起することができます。この場合、無効審判の相手方当事者が被告となります(商標法63条2項、特許法179条)。

出訴期間

 出訴期間は、審決の謄本の送達があった日から30日以内です。この期間は不変期間です(商標法63条2項、特許法178条3項、4項)。

提訴先の裁判所

 無効審判の審決取消訴訟は、知的財産高等裁判所に提訴します(商標法63条1項、知的財産高等裁判所設置法2条2号)。

審決取消訴訟における判決

請求棄却(審決を維持する旨)の判決

 審決取消訴訟において、裁判所が請求に理由がないと認めて請求を棄却する判決をし、その判決が確定したときは、同時に当該審決も確定します。

請求認容(審決を取り消す旨)の判決

 審決取消訴訟において、裁判所が請求に理由があると認めるときは、請求を認容して審決を取り消す旨の判決をします(商標法63条2項、特許法181条1項)。

 そして、審決を取消の判決が確定したときは、当該無効審判事件に対する審決がなされていない状態に戻ります。それで、当該無効審判事件が特許庁に再度係属し、審判官が更に審理をすることになります(商標法63条2項、特許法181条2項)。

 ただし、当該確定判決が、当該事件に関して特許庁を拘束しますので、審判官は、当該確定判決の主文と、その結論を導き出した事実認定と法律判断に基づき、再度の審決をすることになります。他方、審判において、これとは異なる理由で同一の結論の審決をすることはできます。

 

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