納入後の瑕疵(契約不適合)~解説システム開発法務

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「瑕疵担保責任」(契約不適合責任)とは何か

システムの完成未完成と「瑕疵」

 受託者(ベンダー)が開発したシステムを納入した後、発注者(ユーザ)が、「要望した機能の一部が実装されていない」「使いにくい」「一部の入力結果がエラーとなる」といった理由で、「システムは未完成である」、又は「システムに瑕疵がある」と主張して支払いを拒むことがあります。

 この点まず、「システムの完成・未完成」のページのとおり、少なくない裁判例は「最終工程基準」に基づいて完成未完成を判断しており、不具合があるからというだけで「未完成」とは判断されないことが多いといえます。完成・未完成の考え方は、同ページをご覧ください。

 それで、不具合があるという理由だけでは、発注者は未完成を理由に支払を拒むことはできない場合が少なくありませんが、この場合、当該不具合が、法律上の「瑕疵」(契約不適合)に該当する場合、「瑕疵担保責任」という責任の有無が問題となります。

 なお、「瑕疵」という用語は、2020年施行の改正民法で、「契約不適合」という用語に変更されました(民法562条、559条、636条等)。

システムに瑕疵がある場合とは

 どのような場合に「瑕疵」があると判断されるでしょうか。この点、東京地裁平成14年4月22日判決は、情報処理システムの開発に当たっては、作成したプログラムに不具合が生じることは不可避であり、プログラムに関する不具合は、納品及び検収等の過程における補修が当然に予定されているものである、と述べています。

 さらに、同判決では、こうした情報処理システム開発の特殊性に鑑みれば、注文者(ユーザ)から不具合の指摘を受けた後、ベンダー(受託者)が遅滞なく補修を終えるか、又は注文者と協議して相当な代替措置を講じたと認められるときは、この不具合はシステムの瑕疵には当たらない、と述べました。

 それで、発生したすべての不具合がただちに法律上の瑕疵になるわけではない、ということになります。不具合のうち、遅滞なく補修ができず、相当な代替措置も講じられないものが法律上の「瑕疵」ということになります。

「検収」と瑕疵担保責任との関係

 納入したシステムを検収した場合、それ以後瑕疵担保責任は認められないのでしょうか。例えば、受注者(ベンダー)が、「不具合の原因は別として、検収された以上、当社には責任はない」といった反論がなされるかもしれません。

 しかしこの点、検収があったから瑕疵担保責任が消滅するわけではありません。システム開発における検収は、ありとあらゆる瑕疵がないことを確認することではないからです。

瑕疵担保責任と民法改正の影響

契約の時期と改正法の適用

 2020年施行の民法の改正において、瑕疵担保責任が、「契約不適合責任」という用語に変更され、さらに責任の要件や内容に種々の変更が加えられました。

 なお、改正民法が適用されるシステム開発契約は、 改正民法の施行日(2020年4月1日)後に締結された契約となります。したがって、改正民法の施行日の前に締結されたシステム開発委託契約については、改正民法の施行日の後であっても、依然として改正前民法が適用されることになります(改正民法附則34条1項[カーソルを載せて条文表示])。

改正法施行前に締結された契約が更新された場合

 では、改正民法施行前に締結されたシステム開発契約が、改正民法施行後に更新された場合はどうなるでしょうか。

 この点、改正民法施行後に、合意によって更新された契約については、当事者はその契約に新法が適用されることを予測していると考えられ、施行日後に新たに契約が締結された場合と同様に、改正後の新しい民法が適用されると考えられます。

 参照:https://www.mlit.go.jp/common/001286070.pdf

 他方、双方当事者から異議が出ず自動更新された場合はどう考えるべきでしょうか。この点については種々の見解がありますので、裁判所によって解釈が示されるものと考えられます。

瑕疵(契約不適合)がある場合に発注者(ユーザ)が行える請求・措置

 システムに瑕疵がある場合に発注者(ユーザ)が行える請求・措置は以下のとおりです。

修補請求

アウトライン

 これは文字どおり、瑕疵・契約不適合状態を修補(修正して瑕疵をなくす)するように請求する権利です(民法562条1項[カーソルを載せて条文表示]、559条[カーソルを載せて条文表示])。

修補に過分な費用が必要なケース

 2020年施行の改正前の民法では、「瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要する」という場合、瑕疵の修補を請求することができないという規定がありました(改正前民法634条1項但書[カーソルを載せて条文表示])。

 上の規定の解釈として、たとえ修補に過分の費用を要したとしても、修補が物理的に可能であれば、重要な瑕疵については修補を行わなくてはならないという結論が導かれる可能性がありました。

 改正民法は、このような解釈が請負人に過大な履行義務を負わせ、不合理な結論になることになる可能性を考え、上の規定を削除し、瑕疵修補請求権の要件を、民法の一般原則に委ねることとしました。

 具体的には、改正民法412条の2にある、「債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは...履行の請求をすることができない」という規定が適用されることになります。そして補修に過分の費用を要するようなケースについて、この規定がどのように適用されるかが、今後裁判において議論されていくものと考えられます。

代金減額請求

 これは文字どおり、瑕疵・契約不適合状態を修補(修正して瑕疵をなくす)するように請求する権利です(民法563条[カーソルを載せて条文表示]、559条[カーソルを載せて条文表示])。

 これは、2020年施行の改正民法において、裁判例上は認められていた代金減額請求権を法律上明示したものです。

損害賠償請求

概要

 瑕疵(契約不適合)によって生じた損害の賠償を求めることができます。ここには、修補に要した費用が含まれます。

 例えば、ベンダーの技術力不足などにより瑕疵が補修できず、発注者(ユーザー)が別のベンダーに修正を依頼したという場合には、その費用を、受注者(ベンダー)に請求できるということになります。

 ただし、瑕疵があればただちに損害賠償請求の対象となるわけではありません。システム開発においては不具合が生じるのは不可避であることを考えると、ベンダ側が瑕疵に速やかに対応しなかったとか、瑕疵が補修不能であったといった事情が必要となると考えられます。

損害賠償の要件の変更

 瑕疵担保責任(契約不適合責任)については、2020年施行の改正民法によって考え方に変更が加えられました。

 改正前においては、瑕疵担保責任に基づく損害賠償については、受注者(ベンダー)の帰責事由が不要でした。すなわち、客観的に見て瑕疵があれば損害賠償請求が可能でした。

 他方、改正後民法では、損害賠償責任が生じるためには、受注者(ベンダー)において帰責事由が要件となりました。それは、改正民法における契約不適合責任が、一種の契約違反・債務不履行と考えられるようになったからです(改正民法564条[カーソルを載せて条文表示]、559条[カーソルを載せて条文表示])。

 この点は民法の改正によって大きく変化した部分であり、実務上も留意すべき重要な点です。

損害賠償の範囲の変更

 瑕疵担保責任(契約不適合責任)に基づき賠償すべき損害の範囲も、2020年施行の改正民法によって変更されました。

 詳細な説明は省略しますが、改正前においては、瑕疵担保責任に基づく損害賠償責任については、受注者(ベンダー)に過失がなくても発生しましたので、賠償の範囲については、通常の契約違反に基づく責任に比較して限定されていました。

 ところが、改正後民法では、損害賠償責任の発生について、受注者(ベンダー)の帰責事由(過失)が要件となったため、損害賠償の範囲も、通常の契約違反に基づく責任と同様の範囲になりました。

 具体的には、「履行利益」といい、 契約不適合がなければ生じなかった損害(契約不適合と因果関係のある損害)が対象となります。そこには、契約不適合がなければ得られていたであろう利益(いわゆる逸失利益)も含まれることになります。

契約解除

2020年施行の改正前の民法における考え方

 改正前民法635条では、瑕疵を理由とした解除は、請負の目的物に瑕疵があり、これによって契約の目的が達成できないときに限り、解除できると定められれていました。なお、どんな場合に「契約の目的が達成できない」といえるのかについての裁判例は、「瑕疵を理由に契約解除が認められたケース」の欄をご覧ください。

2020年施行の改正民法における考え方

 改正後民法では、契約不適合を理由とした解除については、契約違反・債務不履行に基づく解除と同様の原則に服するようになりました(改正民法564条[カーソルを載せて条文表示]、559条[カーソルを載せて条文表示])。

 そのため、発注者(ユーザー)契約解除を行うためには、受注者(ベンダー)における過失が必要となるほか、以下の点について変更がなされました。

催告が必要

 契約不適合を理由とした解除を行うためには、原則として催告が必要となると考えられます(改正民法541条[カーソルを載せて条文表示])。

 ただし、契約不適合状態の修補が不可能な場合や、受注者(ベンダー)が修補を拒絶する意思を明確に示した場合などは、催告が不要と判断される可能性があります(改正民法542条)。

「契約の目的が達成できない」とはいえない場合

 前述のとおり、請負の目的物の瑕疵によって契約の目的が達成できないときに限り、瑕疵を理由とした解除ができると定められれていた改正前民法635条は削除されました。そのため、改正後の民法においては、契約不適合状態があって、これによって契約の目的が達成できないとは必ずしもいえない場合であっても、契約の解除が認められる余地が生じました。

 もっとも、改正後の民法においても、 請負契約の目的が達成できないとはいえない状況において、成果物の一部に契約不適合がある場合に、これを理由として契約の全部の解除が許されるか否かについては、個々のケースにおいて裁判所がケースバイケースで判断していく可能性もあると考えられます。

 なお、民法に定める契約不適合責任の内容や権利行使の期間などは、契約によって修正することが可能です。それで、改正民法における契約不適合責任の規定を修正し、システム開発委託契約においては、契約不適合責任に基づく契約解除のためには、契約不適合のゆえに契約の目的を達成できない場合に限るといった規定を定めることも可能です。

瑕疵担保責任の行使期間

改正前民法での考え方

 改正前民法においては、瑕疵担保責任に基づく請求権の行使期間は、原則として引渡から1年間と限られていました(改正前民法637条1項[カーソルを載せて条文表示])。また契約によってこの期間がさらに短期に定められていることもありえました。

改正民法における考え方
契約不適合責任の期間の起算点

 改正民法においては、契約不適合責任の期間について変更が加えられました。具体的には、「1年間」の起算点が、成果物の引渡時ではなく、 「不適合を知った時」となりました(改正前民法637条1項[カーソルを載せて条文表示])。

 また、発注者(ユーザー)は、不適合を知った時から1年以内に権利を行使する必要まではなく、1年以内に受注者(ベンダー)に通知をすればよいということになりました。

契約不適合責任の期間の終期

 では、改正民法のもとで、契約不適合責任を行使できる期間はいつまででしょうか。

 この点は、契約不適合責任について、民法の債務不履行の一般原則が適用されることになったことを考えると、 権利行使ができるようになった時から5年間となるのが原則であると考えられます。

契約によって変更が可能

 以上のとおり、契約不適合責任の期間については、改正民法によって大きく変更されました。しかしこの規定がそのまま適用されると過剰な負担を負うことになると考える受注者(ベンダー)も少なくないと思われます。

 この点、前述のとおり、民法に定める契約不適合責任の内容や権利行使の期間などは、契約によって修正することが可能です。それで、改正民法における契約不適合責任の規定を修正し、システム開発委託契約においては、今までの実務と同様、契約不適合責任の期間を検収から1年間といった規定にすることは依然として可能です。

瑕疵を理由に契約解除が認められたケース

 前述のとおり、改正前民法635条では、瑕疵を理由とした解除は、請負の目的物に瑕疵があり、これによって契約の目的が達成できないときに限り、解除できると定められれていました。では、どんな場合に「契約の目的が達成できない」といえるのでしょうか。

 以下、改正前民法に関する裁判例の中で、瑕疵を理由に契約解除が認められたケースの一部を見ていきます。

東京地裁平成5年1月28日判決

 「トレース作業処理等の関連システムのためのパソコンのプログラム作成」という事案でした。裁判所は、ベンダーの納入したプログラムが、文字や図形を入力している際電源を一度切らないと入力が続けられなくなること、直線や円弧を印字する際動作が途中で止まってしまったり一部が欠けて印字されてしまったりすること、入力した文字から文字列を作成して印字しようとすると、スクライバーに出力できなかったり、印字できても、文字間隔かまちまちで文字と文子が重なって印字されてしまったり、文字列が真っ直ぐに並んで印字されなかったりすることがあることなどから、全体として重大な瑕疵があるといえ(一部は未納入)、同種のシステムの開発状況も併せ考えると、契約を締結した目的を達成することかできないと判断し、解除が許されると判断しました。

東京地裁平成14年4月22日判決

 裁判所は、納品したシステムが、(1)在庫照会の検索処理に30分以上の時間を要する場合があり、その間画面が止まったような状態になること、(2)売上計上等の処理速度も遅く伝票を出力するまでの待ち時間も長いこと、(3)一枚の仕入伝票を処理するのに約1時間かかること、(4)仮締処理の月次処理時間が、平成9年10月に実施したときは30分程度であっものが同10年3月21日の時点で約4時間に増加し、その後も増加を続けたこと、(5)システム内容を変更した場合、朝の電源投入処理に数十分の時間を要すること、(6)月次処理の実行中は端末自体が使用できなくなることといった不具合を認定しました。

 その上で裁判所は、当該システムが販売管理システムとして迅速化及び合理化が必須の素として求められていること、ユーザーの営業所では、検索に時間がかかるために、手書きの在庫台帳を作成して顧客からの問い合わせに応じていることから、これら処理速度に関する不具合が、システムを用いて通常業務を行う上で看過することができない重大な不具合であると判断しました。

東京地裁平成16年12月22日判決

 裁判所は、当該システムと同程度のシステムにおける一括在庫引当処理に要する時間がせいぜい数分程度が一般的に要求されるところ、当該システムにおいてはテストデータ300件ですら処理時間に44分も要するから、およそ契約の内容に適合しないものというほかない、と述べました。

 また裁判所は、数時間を要する一括在庫引当処理中、他の商品マスタを利用する処理が一切できず、、1人でも商品マスタのメンテナンスを行っていればその間は全く一括在庫引当処理ができないことになること、同様のことが他の機能にも生じているから、当該システムが実際の業務において使用に耐えないことが明白であって、およそ契約の内容に適合しないといわざるを得ず、契約の目的を達することができない重大な暇疵に該当することが明らかである、と述べました。

 その上で裁判所は、当該システムが販売管理システムとして迅速化及び合理化が必須の素として求められていること、ユーザーの営業所では、検索に時間がかかるために、手書きの在庫台帳を作成して顧客からの問い合わせに応じていることから、これら処理速度に関する不具合が、システムを用いて通常業務を行う上で看過することができない重大な不具合であると判断しました。

東京高裁平成26年1月15日判決

 裁判所は、現行ホストコンピュータの保守期限が9月30日に満了するところ、新システムについては再納入後の検収期間終了時である6月16日時点で補修未了の不具合・障害が31件あり、補修工数は93.4人日を要する規模であった上、新システムの本番稼働までにさらに少なくとも5カ月の導入支援期間が必要であり、さらにその先に現行ホストコンピュータとの並行稼働が必要であったという事実によれば、現行ホストコンピュータの保守期間が満了後もなお長期間を要する状態になっていたものと認められることから、新システムの瑕疵のために、ソフトウェア開発個別契約をした目的を達することができない、と判断しました。

 


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