レベニューシェア契約の概要と主要条項

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レベニューシェア型の契約のアウトラインと基本的な視点

レベニューシェアとは

 本ページでは、近年多くの企業に関心が持たれるようになってきており、多く活用されるようになっている「レベニューシェア」について解説します。

 レベニューシェアは、ウェブサービスなどのシステムの開発にあたり、開発側がベンダ(受託者)として業務委託料の支払を受けるのではなく、開発側が開発費用を負担して開発を行い、開発後に運用・販売されるサービスから得られる売上や利益などを、開発側とユーザ(又は販売側)で分配(シェア)するというものです。

レベニューシェアが活用できるケースの例

 レベニューシェアを活用することのできる例としては、以下のようなものがあります。

  • スマートフォンアプリ(iPhoneアプリ、Androidアプリなど)
  • ECサイト・通販サイト
  • ウェブサイト
  • ゲームソフト
  • ASPサービス・SaaS
  • Eラーニングシステム
  • コンテンツビジネス
  • ポータルサイト
  • 予約システム
  • 業務システム

レベニューシェア取引の基本的な視点

 「レベニューシェア」について発注側は、「初期投資がかからず、収益があれば支払えばよい。収益がなければコストもかからない」と安易に考え、「リスクゼロの取引」であるかのように考えるかもしれません。

 しかし、レベニューシェア取引は安易に決めるべきものではありません。

 それは、レベニューシェア取引が、開発側と発注側が共同で事業を行うという関係に近いからです。共同事業であれば、金銭的な利害もさることながら、各事業者との間で信頼関係があり、各自の役割を果たしつつ相互に協力する関係が継続することがもっと重要といえますが、レベニューシェア取引についても同様のことがいえるわけです。

 それで、レベニューシェア取引に入る相手方については慎重な見極めが必要といえますし、例えばユーザ側であれば、まずは別の契約の形で開発案件を依頼し、信頼関係が構築できた段階でレベニューシェアの取引に進むという方法もあるように思われます。

レベニューシェア型の開発契約の主要条項

 以下、レベニューシェア契約の主要な条項を概観します。主な条項の一部を挙げると、以下のようなものがあります。なお、以下はすべてを網羅したものではない点、ご注意ください。

契約の目的

 ユーザと開発側において、対象物の開発と運用について各自の役割を果たしつつ収益(又は利益)を「レベニューシェア」として分け合うという契約の基本的な目的を明記します。

業務分担の範囲

 ユーザと開発側との間で、レベニューシェアによって分配を受ける報酬の範囲で、どの当事者がどんな業務・役割を担うかを明示します。

 具体的には、システムの開発、システムの運用・保守・管理、コンテンツの提供・更新、販売その他の営業、売上や収益の回収と管理、利用者の管理、問合せ窓口、システムの継続的開発・追加開発など、できる限り詳細に定めます。

費用負担

 また、各当事者が分担する業務についての費用負担や、サードパーティに業務を委託する場合の費用の取り扱いを定めます。

 また、サーバ維持費やリース料などの実費の取扱についても定めます。

 なお、初期開発のコストについては開発側が負担し、それをレベニューシェアで回収することが多いといえますが、場合によっては、初期開発のコスト又はその一部を、ユーザが開発側に支払う、というケースもあります。

レベニューシェアの対象

 レベニューシェアの対象について、売上とするのか、利益とするのかといった対象を明確にします。

 レベニューシェアの対象が売上であれば控除すべきものがないか、控除すべきものがある場合にはその内容を明示します。

 レベニューシェアの対象が「利益」であれば、その利益の定義を明確にし、疑義がないようにします。

レベニューシェアの分配比率・分配方法

 レベニューシェアにおける分配比率を定めます。何らかの理由で比率を変動させる場合には、その具体的な事由もできる限り明確にします。

 分配方法として、どちらの当事者が売上を受領するか、売上等の分配の対象について、どの期間で締め、いつどのように相手方当事者に報告するか、また支払サイトについても明示します。

 また、レベニューシェアとは別に、一方当事者が定額で受領する料金や報酬があれば、この点も明示します。例えばシステムの保守費用は定額の受領にするといった方法もありえます。

業務事項の決定権限

 業務を進めるにあたり、決定すべき事項は、契約にある事項を除き、基本的には両当事者の協議で決めることが多いと思われます。

 しかし、最終的な決定権者を定めておき、最終的にはデッドロックが起きないようにしておくこともできます。

協力義務

 レベニューシェア取引の成功のためには、両当事者の協力が欠かせませんが、契約においても、具体的な協力義務の内容を記述することがあります。例を挙げれば以下のとおりです。

  • 打合せ・ミーティングの出席
  • 資料やコンテンツの提供
  • 顧客サポート・顧客対応における協力
  • 販促活動における協力
  • 知的財産の出願や侵害対応に関する協力
成果物の権利の帰属

 開発対象物の著作権、及び他の知的財産権の帰属について定めます。 

 様々な定め方がありますが、両当事者で共有とする形、一方当事者が保有すると定める形があります。

 著作権と他の知的財産で取扱を分ける場合もあります。また、最終的にはユーザに帰属させることを前提に、一定の売上高に達するまでは共有又は開発側に帰属という定め方もあります。

一方当事者の保有とする場合の考慮要素

 一方当事者が保有すると定める場合、プロジェクト・事業を発案し、企画を主導する側が保有すると定めることが多いと思われます。例えばユーザ側が発案し、企画を主導する場合、仮に共同事業が終了しても当該成果物の使用を続け、その事業自体は自ら継続したいと考える場合が多いでしょうから、知的財産権を単独で保有しておくメリットは大きいといえます。

 他方、開発側の事業者においても著作権などの知的財産権を自社に残したいという要望が強く出されることがあります。それは、開発側に著作権を残す場合、契約終了後であっても、ユーザ側は、開発側の同意なく、当該成果物の使用や修正・改良を行うことができないため、契約期間満了の際、更新の方向に動きやすくなるからです。

 それで、こうした各自の利害を考えて両当事者間で交渉がなされることになります。例えば、権利をユーザ側に帰属させると定めつつ、契約終了後は、開発側が、ユーザ側の事業と競合しない限り成果物を流用できるとする妥協案が考えられるかもしれません。

共有とする場合の考慮要素

 著作権などの知的財産権の帰属について、相互に仲良くやっていこうという趣旨から、又は各当事者の主張の妥協として、共有とするという扱いがなされることがあります。

 この場合には、共有著作物の扱いには種々の制約があることを意識し、この点に対する手当をしておかないと、契約終了後相互に不便な事態が生じることになります。

 なお、著作権が共有とされる場合の著作権法上の扱いは、「共同著作物と著作権の共有の扱い」のページもご参照ください。

契約期間

 契約期間を定めます。また、契約期間満了時の更新についても定めます。

 なお、レベニューシェアにおいては、特に開発側にとっては、契約期間が一定以上存続しないと開発費用が回収できないという事情がありますので、こうした点を考えて契約期間についてもしっかりと吟味します。

解除に関する規定

 どのような場合に一方当事者からの通知によって契約を解除できるのか、その要件を定めます。一般的には、以下のような事実が他方当事者にあった場合に解除できる、という規定が実務上よく見られます。

  • 契約に違反し、一定期間の催告があっても是正されない場合
  • 破産申立などの倒産に至った場合
  • 差押や仮差押などの処分があった場合
  • 手形の不渡など信用を失う事実があった場合
  • 主要株主に変更があった場合

 もっとも、レベニューシェア契約は、共同事業的性質が強く、長期の存続が想定されていることを考えると、些細な理由で解除権が認められることの不都合性を考え、他の通常の契約に比べ、解除事由をより厳しくするという選択もありうると思われます。

契約終了時のルール

 契約を長く存続させることは通常は皆が望むものですが、契約はいつか終了することがあることは現実です。それで、終了時のルールを明確にしておくことは重要といえます。

 具体的には、以下のような点について契約終了時の取扱を明示しておくことを検討します。

  • 相手方からの預かり資料の返還、破棄
  • 秘密保持義務、その他存続すべき規定
  • 契約終了後の当該事業の継続の有無・継続する当事者の選定
  • 契約終了後の当該事業を継続しない当事者による競業行為の可否
  • 成果物に関する権利関係の帰属(著作権の帰属、特許権などの他の知的財産権の帰属)
  • 成果物の引渡し・承継
  • 成果物の使用・活用に関するルール
  • 違約金等の定め

 


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