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4.3 商標権侵害の考え方~商標としての使用が問題となる場合

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商標としての使用が問題となる理由

問題の所在

 形式的にみると、ある行為が、他者の登録商標の「使用」にあたるようにみえる場合であっても、使用の態様から商標としての使用とはいえず、その結果当該商標権を侵害しているとは判断されないケースがあります。

 一般に、商標の主な機能は、自己の商品を他の商品と区別するための「目じるし」としての機能(自他商品識別機能、出所表示機能)であると認められています。

 したがって、ある商標と同一の文字や図形を使用したとしても、自他商品識別機能、出所表示機能等を有するような使用の仕方でなければ、その商標権を侵害しているとはいえません。これは一般に「商標的使用論」といわれ、裁判実務でも定着しています。

 例えば、自社商品のパンフレットに使用されているものの、その使用が、明らかに他者商品について言及した記述や説明に過ぎないという場合、当該使用は、商標の本来の機能である自己の出所表示機能を有しているとはいえませんから、実質を見れば商標としての使用には当たらないわけです。

商標法26条1項6号との関係

 この点に関連し、平成26年(2014年)に、商標法26条1項6号が新設されました。

 同規定は、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」には商標権の効力が及ばない、という規定であり、商標的使用論を明文化する規定といわれています。

 以下、具体例を交え、「商標としての使用」には該当しないと判断されたケースを解説していきます。

裁判例に現れた具体事例

書籍の題号・音楽CD等のタイトル

 書籍の題号がある商標と同じであったとしても、基本的には商標権の侵害とはならないと解されています。それは、同じ作家の同一題号の書籍が複数の出版社から出版される例があることからも分かるとおり、書籍の題号はその書籍の内容を表すものであっても、その書籍の商品としての出所(どの出版社なのか)を表すものではないからです。

 同様に、音楽CDのアルバムタイトルや曲名も、その内容を表すものであって、一般には自他商品識別機能、出所表示機能等(どのレコード会社か)を有するとは考えられないため、それら名称がたまたま他者の登録商標と重なっていても、通常は商標権の侵害とはなりません。

 ただし、CDのタイトルであっても、レコード会社等の一定の編集方針に基づき、内容たる曲がそれぞれ異なるアルバムが同一のタイトルの下に反復、継続して製作、販売されるシリーズものとしてのタイトルであるといった例外的な事情がある場合、商標権の侵害に該当することもあると考えられます。

 具体例としては、以下のようなものがあります。

音楽CDの事例:『UNDER TEH SUN』事件(東京地裁平成7年2月22日判決)

 指定商品に楽器、レコードなどを含む商標を有する商標権者が、その商標と同じタイトルのアルバムをリリースしたシンガーソングライターに対して商標権侵害を主張ました。

 裁判所は、当該アルバムタイトルが、CDの発売元を表示する機能を有しておらず、レコード会社が変わった場合でもアルバムタイトルが変更されずに使用される実例が多数存在している等と指摘し、商標権の侵害を否定しました。

書籍の題号の事例:POS事件(東京地裁昭和63年9月16日判決)

 書籍の題号である「POS実践マニュアル-診療録の記載方法-」が、指定商品を印刷物とする「POS」の登録商標の商標権を侵害していないと判断された例です。

書籍の題号の事例:がん治療の最前線事件(東京地裁平成16年3月24日判決)

「がん治療の最前線」という書籍の題号が、「新聞、雑誌」を指定商品とする「がん治療最前線」という文字商標の商標権を侵害するかが問題となりました。

 裁判所は、当該題号が書籍の内容を示すものであり、書籍の出版元を表示する標章の使用としては(商標として使用されている標章)は別に記載されていることから、商品を特定する機能ないし出所を表示する機能を果す態様で用いられていないと判断し、商標権侵害を否定しました。

書籍の題号の事例:朝バナナ事件(東京地裁平成21年11月12日判決)

 標準文字の「朝バナナ」につき、「雑誌、書籍、ムック」等を指定商品とする商標権を持っている出版社が、「朝バナナダイエット成功のコツ40」という題号で書籍を販売した出版社に対し、商標権侵害を主張しました。

 これに対し裁判所は、被告が使用する「朝バナナ」の文字は、「書籍の題号が表示されていると認識するものと考えられる箇所に、題号の表示として不自然な印象を与えるとはいえない表示を用いて記載されている」ものであり、「自他商品識別機能ないし出所表示機能を有する態様で使用されていると認めることはできない」と判断しました。

ゲームソフトの名称の事例:三國士事件(東京高裁平成6年8月23日決定)

 コンピューター用ゲームソフトに「三國士」の文字を付する行為が、「電子計算機用プログラムを記憶させた磁気ディスク」等を指定商品とする「三国志」という登録商標の商標権の侵害の有無が問題となりました

 裁判所は、前記のような使用は、当該ソフトの内容を示す題号として使用しているにすぎず、自他商品の識別機能を果たしているというような事情も認められないという理由で、商標権侵害を否定しました。

包装の状態を表すものと判断された例

 「銀包装」の文字を、他の出所標識とともに、商品であるあられやおかきの包装容器に使用する行為が、菓子パンを指定商品とする「銀装」という文字で構成される商標権の侵害となるかが争われたケースがあります(大阪地裁昭46日3月3日判決)。

同判決は、前記のような使用態様では、その「銀包装」という文字が包装の状態を表すものとして認識されるから、商標権を侵害しないと判断しました。

商品の品種名・内容等の表示であると判断された例

「巨峰」事件(福岡地裁飯塚支部昭46年9月17日判決)

 裁判所は、「巨峰」の文字を、容器内のぶどうの品種名として、ぶどうの包装容器の見やすいところに表示する行為につき、包装容器を指定商品とする「巨峰」の文字で構成される登録商標の商標権を侵害しないと判断しました。

「テレビまんが」事件(東京地裁昭和55年7月11日判決)

 かるたの容器の蓋の表面に、大きく表示されされた「一休さん」の文字・内容をあらわす図形等とともに、「テレビまんが」の文字を表示する行為が、娯楽用具を指定商品とする「テレビマンガ」の文字商標の商標権を侵害するかが問題となりました。

 裁判所は、前記表示は、かるたの内容が、テレビ漫画「一休さん」に由来するという商品内容を表示する行為にすぎず、自他商品識別標識としての機能を果たす態様としての使用とはいえないという理由で、商標権侵害を否定しました。

「通行手形」事件(東京地裁昭62年8月28日判決)

 将棋の駒の形をした吊り紐のついた木製品に「通行手形」の文字を、「交通安全」その他の文字や図形とともに表示する行為が、「通行手形」の文字商標(指定商品は壁掛け、柱掛け)の商標権を侵害するかが問題となりました。

 裁判所は、前記のような使用態様は、当該製品が、歴史において実際に使用された通行手形を模したものであることを表現するためであって、自他商品識別機能を持つ態様での使用とはいえないという理由で、商標権侵害を否定しました。

タカラ本みりん入り事件(東京地裁平成13年1月22日判決)

 「煮魚おつゆ」「煮物万能だし」「煮物白だし」等の商品の容器に「タカラ本みりん入り」という表示を付した行為が、「宝」「タカラ」「TAKARA」という登録商標(指定商品は しょうゆ、つゆの素、みりん風調味料等)の商標権を侵害するかが問題となりました。

 裁判所は、前記のような使用は、商標法26条1項2号の原材料の説明であって商品の出所表示のための使用ではないとして商標権侵害を否定しました。

ドーナツクッション事件(知財高裁平成23年3月28日判決)

 被告は、自社が販売する、中央に穴の開いた輪形の形状をしたクッションについて、説明文や図とともに「ドーナツクッション」の文字を記載していました。

 原告は「ドーナツ」の文字から構成される登録商標を有しており、指定商品に「クッション」が含まれていました。

 裁判所は、一般消費者が、被告商品の本体の形状を示すイメージ図及び説明文と相俟って、被告商品が中央部分を取り外すと、中央に穴のあいた輪形に似た形状のクッションであることを表すために用いられたものと認識し、商品の出所を想起するものではない、として商標権侵害を否定しました。

売り場の名称の表示であると判断された例

 デパートが、「おもちゃの国」「TOYLAND」の文宇を、玩具・人形の売場に表示する行為が、玩具等を指定商品とする「おもちゃの国」「TOYLAND」などの文字で構成される登録商標の商標権侵害の有無が問題となりました。

 裁判所は、前記の表示は、単に玩具の売場自体を示すためにのみ用いられていると認められるという理由で、商標権侵害を否定しました(東京地裁昭48年1月17日判決)。

デザイン・意匠的効果に関する例

ポパイ事件(大阪地裁昭和51年2月24日判決)

 「POPEYE」の漫画の図柄と文字をアンダーシャツの胸部に大きく表示する行為が、被服等を指定商品とし「POPEYE」「ポパイ」の文字とその図形で構成される登録商標の商標権侵害の有無が問題となりました。

 裁判所は、前記のような使用は態様は、意匠的効果である「面白い感じ」等にひかれてその商品の購買意欲を喚起させることを目的として表示されたものであり、出所表示を目的とした表示ではないという理由で、商標権侵害を否定しました。

清水次郎長事件 (東京地裁昭51年10月20日判決)

 「清水次郎長」の文字が、次郎長一家を中心とする物語にちなんだ文字図形とともに三角旗内に表示されているというケースで、屋内装置品を指定商品とする「次郎長」の文字商標の商標権侵害の有無が問題となりました。

 裁判所は、前記のような場合、その意匠的な効果により需要者の購買意欲を喚起させようとするもので、自他商品識別標識とは認められないという理由で、商標権侵害を否定しました。

ルイ・ヴィトン事件 (大阪地裁昭和62年3月18日判決)

 被告は、「L」と「V」を図案化した標章を、以下のように、かばんの表面全体にわたって模様のように表示し、意匠的効果を目的としたものであると主張しました。

 裁判所は、このような模様であっても、自他商品識別機能を有するかぎり、商標としての使用にあたると述べ、装飾的な効果と商標の機能の両立を認めました。

ピースマーク事件 (東京地裁平成22年9月30日判決)

 原告は、以下のようなピースマークに類似する商標を登録していました。

 他方、被告が販売するパーカーには、以下のような図柄が前面に大きく示されていました。この図柄において、2匹の猿と鳩の背後に、ピースマークに類似する標章が配置されていました。

 裁判所は、被告商品の図柄におけるマークが、背景の一部として模様的に描かれ「平和」を表現する効果を狙ったものと認識することができ、猿のキャラクターとその下部に表示されたブランドがファッションに関心のある若者層の間では広く認識されており、商品の出所の識別標識として強く支配的な印象を受けるものと認められるから、被告の「ピースマーク」は「平和」を表現するために用いられたものと認識し、商品の出所を想起させるものではなく、本来の商標としての使用(商標的使用)に当たらないと判断しました。

キャッチフレーズとしての使用と判断された例

 清涼飲料コカコーラに「ALWEYS」を含む図柄を使用した行為が、指定商品を清涼飲料とする登録商標「オールウエイ」の商標権侵害となるかが問題となりました。

 裁判所は、前記使用はキャッチフレーズの一部であり、商品を特定する機能や出所を表示する機能を果たす態様で用いられているとはいえないという理由で、商標権侵害を否定しました(東京地裁平成10年7月22日判決)。

 

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