システム開発と対価・費用の諸問題

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契約の性質と委託料の定め方

契約の性質の概要

 システム開発委託契約は、法的性質として大きく分けると、「請負契約」と「準委任契約」があるといわれています。

 前者(請負)は、請負人の仕事の完成に対し、注文者がそれに対して報酬を支払うという契約であり、後者(準委任)は、委託者が受託者に対し、ある作業自体を委託するという契約(完成という結果自体は義務ではない)です。

 なおこの点についての詳細は、「システム開発委託契約における「請負」と「準委任」」をご覧ください。

請負契約の場合

 請負契約の場合には、請負代金の発生が成果物の完成引渡によることから、請負代金の決め方は、成果物全体に対して総額を決めることが多いといえます。

 ただし、以下に述べるとおりの方式があります。

一括請負

 システム開発のすべての工程(要件定義~設計~製造)を1個の請負契約として締結する方式です。この場合は、請負代金も、最終成果物を対象として定めることが多いといえます。

多段階契約

 システム開発を要件定義、設計(基本、詳細)、製造といった工程ごとに区分し、工程ごとに個別契約を締結する方式です。この場合、全工程に共通して適用する基本契約も締結することが一般的です。

 この場合には、工程ごとに費用を算出します。またもう少し正確にいえば、工程ごとに法的性質を定義することが通常です(要件定義、基本設計は準委任とし、詳細設計以降は請負とすることが多い)。

準委任契約の場合

 要件定義段階に代表されるような準委任契約によるサービスの場合には、委託料の決め方は、大きく分けると、「定額方式」と「従量方式」の2パターンがあります。

定額方式

 「300万円」といった具合に、作業全体に対して、委託料(対価)の総額をあらかじめ定めておく方式です。

 もっとも、要件定義といったフェーズは、ユーザが主体となって行う業務であり、ベンダはこれに対して技術面で支援するというものです。そして、ユーザの作業の進め方、かかわり方の主体性、ITへの理解の程度等によってベンダの支援業務の量が想定よりも増大することがあります。

 そのため、ベンダ側では当初の見込みと実工数が異なる場合の費用負担のリスクを負うことになります。それでこうしたリスクを回避するためには、当該金額が前提とする工数を定めておくといった規定を契約書に置くという対策が考えられます。

従量方式

 実際の工数に応じて算定する方式であり、多く登場する例としては、技術者のスキルに応じた時間単価を定め、実際に行った作業の時間数に応じて算定するという決め方があります。

 また「時間単価✕時間」の定め方の一つのバリエーションとして、月単位で一定の幅の標準時間(例:150~170時間等)と月額料金を定め、実績値が標準時間内の工数であった場合は月額料金の支払いとするといった方式もあります。

対価・費用に関するトラブルや紛争例

想定外の工数増加と費用負担

 契約締結後の開発作業の中で、ベンダーが想定していた工数を大幅に超えるという事態が生じることがあります。こうした場合の費用負担に関する紛争例をご紹介します。

東京地裁平成7年6月12日判決

下請業者A社は元請業者B社から、システム開発委託の打診を受けた際、B社からは、対象システムの規模が約3万5000プログラムステップ、工数は 35から40人月程度との見込みであるとの説明を受けました。それでA社はこれを元に見積を作成しました。

 ところが、実際の開発では、実際の工数が当初予定の工数を大幅に超過しました。そこで、A社はB社に対し、契約した委託代金はB社が説明した規模・工数が前提であって、予定を上回る工数分は、契約範囲外であって、B社が追加費用を負担すべきであると主張しました。

 裁判所は、契約書にはシステムの見込の規模や工数などの記載がなかったこと、A社にはシステム開発の事業者として専門的知識・能力があり、契約締結前にシステムにつき元請業者から十分説明を受けていたから、委託代金を正しく見積もれたはずであったことから、契約にかかる委託代金は、当初の規模・工数の見込を前提としたものではなく、システム開発業務全体の対価であると判断し、A社の主張を認めませんでした。

開発委託契約の未成立と費用負担の合意に関する紛争

 開発委託契約の成立まではなかったものの、開発費用の負担や精算について何らかの合意があったか否かが問題となる紛争ケースもあります。

 この点については、「契約書の未調印とシステム開発契約の成否」のページをご覧ください。

開発委託契約の性質と対価請求権の有無に関する紛争

 開発委託契約の対象物が完成しなかった場合に、当該契約が、完成義務自体はない準委任契約か、完成義務がある請負契約かによって、対価請求権が発生する場合と発生しない場合があるため、この点が争点となることがあります。

東京地裁平成3年2月22日判決

 ユーザーであるA社とベンダーであるB社は、大規模な通信システムの一部に使うプログラムの開発の委託契約を締結しました。しかし、開発は大幅に遅れ、結局は開発不能が確定しました。B社は、当該開発委託契約は準委任契約であると主張して、作業を行った分の報酬を請求しました。

 裁判所は、B社が作成した開発工程表にプログラムを完成させることを前提として完成までのスケジュールが記載されていること、プログラムの規模・内容についてもB社が完成可能なものであったこと、等の理由から、当該契約は請負契約であると認定し、B社の請求を認めませんでした。

仕様変更の主張と追加費用に関する紛争

 紛争となる事例の多くは、中途で仕様の追加や変更があったのか否かが争いとなり、これと絡んで追加費用の請求の可否が争点となっています。その例をご紹介します。

東京地裁平成17年4月22日判決

 A社(発注者)は、現行の書籍在庫管理システムに代わる新システムの開発をB社(ベンダ)に発注しました。ところがA社は、検収の段階で「個別出版社対応プログラム」の機能不足への対応を要請しました。

 B社は、A社から仕様提示のないプログラムを除いて追加開発をしてシステムを完成させましたが、開発費用が当初の見積から大幅に増えたため、追加の請負代金請求について争いとなりました。

 A社は、委託したのが「現行の業務+新機能」の開発であり、現行業務に「個別出版社対応プログラム」が含まれていたことから、新システムにおいても開発範囲に含まれると主張して追加の請負代金請求を争いました。

 裁判所は、開発業務範囲には当該プログラムは含まれておらず、A社からの仕様未提示のために未設計の部分を除いてB社がプログラム開発を完了したとして、追加の請負代金請求を認めました。

 本件の紛争の原因の一つとしては、A社が提示した仕様書には開発費用を抑える等の理由から個別出版社対応プログラムが含まれていなかったのに対し、B社が提示した見積書では、現行システムの業務に新機能を付加したものを開発対象とすることが前提条件となっていたことから、この齟齬が原因の一つになったことが考えられます。

 
 

 


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