商法512条に基づく相当報酬請求権
商法512条に基づく相当報酬請求権の概要
商法512条の内容
商法512条は、「商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる」と定めています。
つまり、会社などの「商人」は、その営業の範囲内にある行為を他人のためにしたときは、契約で報酬について合意していなくても、商法の規定に基づき「相当な報酬」を請求できるということになります。
なお、報酬のほか、費用の償還を請求することもできます(民650条1項・656条・665条・702条1項)。
相当報酬請求権が定められた理由
契約での合意がないのに会社が相当な報酬を請求できると法律が定めたのは、そもそも会社等の商人は営利を目的として活動する者であり、その行為は営利の目的のためにされるものであるからである、と説明されています。
「営業の範囲内」とは
「営業の範囲内」においてする行為とは、会社の営業の関連においてする行為の意味であり、厳密に自己の営業の部類に属する行為よりも広く、営業上の利益または便宜を図るための一切の行為を含む、と考えられています。
「他人のため」の行為とは
「他人のため」の行為とは、その行為の法律上又は事実上の効果がその他人に帰属することをいいます。そして、その行為が現実に他人の利益となったか否かを問いません。また、自己の利益のためと同時に他人の利益のために行う場合でも、報酬請求権は認められるとされています。
相当な報酬額の算定
相当な報酬額については、当該業界の基準、業務の規模・内容等を総合的に勘案して判断されます。
商法512条に基づく相当報酬請求権が問題となった裁判例
以下、商法512条に基づく相当報酬請求権が問題となった裁判例の一部をご紹介します。
相当な報酬請求を認めた事案
名古屋高裁平成29年8月31日判決
A社は、B社とC社(買主)間の不動産売買契約を媒介しました。当該売買契約においては、C社が行う土壌汚染調査によって土壌汚染が検出された場合契約を白紙撤回できる旨の特約がありました。
結果として当該土地から基準値を上回るヒ素が検出されたため、当該売買契約は解約されました(ただし解約の効力についてはB社とC社間で争われました)。
A社は、当該解約は無効であると主張し、C社に対して約定の仲介報酬を請求しました。
裁判所は、解約は有効であると判断して約定の仲介報酬の請求は認めませんでしたが、商法512条に基づく相当報酬として、C社に対して、約定の報酬額の約3割(売買代金の1%)の支払を命じました。
東京地裁平成28年5月13日判決
A社は、B社から、B社が買主となり、Cファンドが売主となるD社の企業買収(株式譲渡による買収)につき業務委託を受けました。
そして、個人であるE氏は、A社の代表者の指示によって、A社への助言や打ち合わせへの出席、書面の作成等の作業を行いました。そして、当該買収が完了した後、A社は当該案件の報酬としてB社から5250万円を受領しました。
E氏は、A社に対し、商法512条による相当な報酬として、A社が受領した当該報酬の半額の支払を請求しました。
裁判所は、E氏の行った作業の内容を検討し、A社が取得した報酬金額の15%程度に当たる800万円が相当な報酬額であると認定しました。
東京高裁平成23年3月9日判決
A社ら3社の宅地建物取引業者とB共済組合との間で、B組合の不動産の売却を含めた有効活用策の検討、売却方法に関する助言等の業務を受託するアドバイザリー契約を締結しました。売却方法としては入札方式を取ることとしました。
宅建業者であるC社は、入札において最高額を提示して優先交渉権を取得し、A社らとの折衝を経て、B組合との間で、C社とD社(C社の共同事業者)を買主、代金額を約2309億円とする売買契約を締結しました。
A社らは、C社が入札書を提出することによってA社らとC社との間で媒介契約が成立し33億円(国交省告示に基づく上限額)の報酬を合意したと主張してその支払を求めたほか、商法512条に基づき相当報酬の支払を求めました。
裁判所は、報酬の合意は否定しました。他方、商法512条に基づく相当な報酬の金額として、B組合がA社らとの間で報酬を8億4000万円とする媒介契約を締結して既にこれを支払っていること、報酬の額については「統一した算定基準があるようには窺われないが、高額物件については、売買代金額の1%以下のものも少なからず存する」こと、さらにA社らが行った仲介行為の内容(期間、労力、難易度等)を勘案すると、報酬は8億4000万円とするのが相当である、と判断しました。
東京地裁平成19年10月31日判決
A社とB社(ソフトウェアのベンダ)との間で、B社がA社に会計システムのコンピュータソフトウェアを作成して納入するための契約締結交渉を継続中に、契約締結交渉が解消されました。そして、B社は、A社に対し、商法512条の報酬請求権に基づきこの交渉の過程で行った作業の報酬金等の支払を求めました。
裁判所は、新会計システムの開発製作にかかる請負契約は締結されなかったものの、B社がA社の委託を受けて要件定義を確定して契約を締結するための作業を行ったから、法512条に基づき相当額の報酬を受けるべき請求権を有すると判断しました。
報酬額については、全体設計を含む要件定義作業が、取引管理システムにかかる要件定義、予算管理システムにかかる要件定義及びこれを連動させるデータベースの設計作業があったところ、B社が、主に取引管理システムにかかる要件定義作業をほぼ完成していたことに加え、他の事情を総合勘案し、全体設計費用及び要件定義費用の合計額650万円の4分の1の170万6250円(税込)が相当である、と裁判所は判断しました。
相当報酬請求権を否定した事例
東京地裁平成30年2月27日判決
裁判所の認定によれば、A社はB社に、A社が開発するシステムに基づくサービスの開始により得られる収益をA社とB社で分配することを前提に、当該システム開発を行う提案をしたところ、B社もこれに応じました。
しかし、当該開発は長期にわたり、サービス開始の見通しも立たない状態でした。そしてA社は、開発従事スタッフの統計上の時間単価を踏まえて算出した金額が相当報酬額であるとして、B社に対し、商法512条に基づく支払を求めました。
裁判所は、前記のようなシステム開発にかかる前提に立てば、商法512条に基づきA社が報酬請求ができるというためには、A社が単に労力を投じたにとどまらず、少なくとも、A社がシステムを開発してB社がこれに基づくサービスを開始することができる状態に至ったことが必要であると述べました。そして、当該状態に至っていないことを理由に、B社の請求を認めませんでした。
東京地裁平成20年12月25日判決
A社はB社に対し、あるアニメーション映画の一部の映像を3次元コンピュータグラフィクスによるシーンデータに加工していわゆるパチスロの表示画面に搭載する業務を委託しました。
B社は、業務委託契約に基づき未払の対価の支払を求めるとともに、商法512条に基づく請求として、追加作業にかかる作業の対価の支払を求めました。
裁判所は、B社が主張する追加作業は、契約に定める本来の業務の遂行に伴って行われた作業であり、元の業務委託契約とは別個に対価が根拠付けられるとは考え難いとして、B社の請求を認めませんでした。
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