人材紹介事業に関する法令・人材紹介契約のサンプルと解説
本ページでは、有料職業紹介事業に関する法令上の規制のアウトラインをご説明するとともに、主として有料職業紹介事業者の視点から、一般的な人材紹介契約書(有料職業紹介契約書)について、サンプルから各規定の意味や留意点などを解説します。
有料職業紹介事業のアウトライン
以下、有料職業紹介事業に関する留意点のうち主なものを見ていきたいと思います。なお、以下はすべての事項を網羅的に記載したものではありません。
許可が必要
有料職業紹介事業を営むためには、厚生労働大臣の許可を受ける必要があります(職業安定法30条[カーソルを載せて条文表示])。
一定事項の明示義務
明示すべき事項
職業安定法によれば、有料職業紹介事業者(人材紹介会社)は、求人者となる企業及び求職者に対して明示すべき事項が定められています(職業安定法32条の13[カーソルを載せて条文表示]、同法施行規則24条の5第1項[カーソルを載せて条文表示])。
具体的には以下の事項を明示します。
- 取扱職種の範囲等
- 手数料に関する事項
- 苦情の処理に関する事項
- 求人者の情報及び求職者の個人情報の取扱いに関する事項
- 返戻金制度に関する事項
明示の方法
明示の方法としては、書面、FAX、電子メール、LINEやFacebook等の SNSのメッセージ機能があります(職業安定法施行規則24条の5第2項[カーソルを載せて条文表示]、17条の7第2項、4条の2第4項2号ロ)。
また手数料表、返戻金制度に関する事項を記載した書面及び業務の運営に関する規程について、インターネット等で情報提供をする必要があります(職業安定法施行規則24条の5第4項[カーソルを載せて条文表示])。
募集時等に明示すべき事項
規制の趣旨・目的
紹介会社が適正・適法な職業紹介を行う上で最も重要な事項の一つが、労働条件等の明示です。
具体的には紹介事業者には、職業紹介に当たって、求職者に業務内容、賃金、労働時間等の労働条件を明示すべき義務が課されています(職業安定法5条の3第1項[カーソルを載せて条文表示])。それは、求職者が紹介を受け就業するに際しては、労働条件をめぐってトラブルが生じやすいため、予め労働条件を明示することによりこうしたトラブルの発生を防止するという目的があるからです。
労働条件等の明示の方法
明示の方法としては、書面、FAX、電子メール、LINEやFacebook等の SNSのメッセージ機能があります(職業安定法施行規則4条の2第4項[カーソルを載せて条文表示])。
労働条件等の明示に当たっての確認
職業紹介事業者は、求人者から申込みのあった求人のうち、法令違反等一定の求人は受理しないことができます(職業安定法5条の6第1項[カーソルを載せて条文表示])。
よって、職業紹介会社は、求人者から示された労働条件等をそのまま明示するのではなく、法令違反その他職業安定法5条の6第1項に記載の各事項をチェックします。
そして、職業紹介事業者は、当該事項に該当するかどうかを確認するため、求人者に報告を求めることができ、求人者は、正当な理由がない限り、その求めに応じる義務があります(職業安定法5条の6第2項、第3項[カーソルを載せて条文表示])。
そのため、人材紹介会社としては、求人者から示された労働条件等についての法令違反等のチェックを適切に行うため、労働基準法等の労働関係の法令に関する知識が必要となります。
チェックすべき項目には以下のようなものが含まれます。
- 法令に違反する求人の申込
- 賃金、労働時間その他の労働条件が通常の労働条件と比べて著しく不適当であると認められる求人の申込
- 労働労働等の明示がない求人の申込
求人条件と実際の労働条件に相違が生じる可能性がある場合は
労働契約においては、求人条件と実際の労働条件が異なるということは、良し悪しは別として、一定の程度存在します。それで、平成11年労働省告示第141号は、「明示する労働条件等の内容が労働契約締結時の労働条件等と異なることとなる可能性がある場合は、その旨を併せて明示するとともに、労働条件等が既に明示した内容と異なることとなった場合には、当該明示を受けた求職者等に速やかに知らせる」ことを要配慮事項としています。
もっとも、実務上は、紹介会社としてはそのような可能性があれば、求人企業とコミュニケーションを取って相違の可能性をなくすことが望ましいといえます。
紹介手数料
求人企業からの紹介手数料
紹介手数料については、職業安定法でその徴収が認められたもの以外、職業紹介に関し、いかなる名義でも、実費その他の手数料又は報酬を受けることができないとされています(職業安定法32条の3)。
そして、職業安定法は、求人社から受領できる手数料について、厚生労働省令で定めた金額とするか、予め厚生労働大臣に届け出た手数料表によるとするか、いずれかとすべきことを定めています(職業安定法32条の3第1項[カーソルを載せて条文表示])。
もっとも、実務では、予め厚生労働大臣に届け出た手数料表による場合が圧倒的に多いのが実情です。
求職者からの紹介手数料
求職者からの手数料については、法律は、例外を除き、原則徴収できないと定めています(職業安定法32条の3第2項[カーソルを載せて条文表示])
また実務上も、求職者から紹介手数料を受領するケースは極めて少ないと思われます。
求職者の能力に適合する職業の紹介等の義務
職業安定法5条の8は、有料職業紹介事業者に対し、「求職者に対しては、その能力に適合する職業を紹介し、求人者に対しては、その雇用条件に適合する求職者を紹介するように努めなければならない」という義務を定めしています。
もっとも、この義務は努力義務であるため、結果的に適合しない職業の紹介をしたからといって直ちに人材紹介会社に責任が発生するわけではないと考えられます。それで、求人企業の求人条件に照らし、紹介事業者として一般に期待される程度の調査を行えばよく、当該調査の程度についても紹介会社に広い裁量があると考えられます。ただし、特定の資格を必要とする職業については、紹介に当たって、求職者が当該資格を有しているか適当な手段で確認することは、通常は必要になると考えられます。
個人情報保護に関する義務
個人情報の収集・保管・使用についての義務
職業安定法は、人材紹介会社に対し、求職者の個人情報の収集・保管・使用についての遵守事項を定めています(職業安定法5条の5)。
具体的には、業務の目的の達成に必要な範囲内で、当該目的を明らかにして求職者等の個人情報を収集すること、当該収集の目的の範囲内でこれを保管して使用することが定められています(職業安定法5条の5第1項[カーソルを載せて条文表示])。
なお、当該業務の目的については、「インターネットの利用その他適切な方法により行う」とされています(職業安定法施行規則4条の4)。
また、有料職業紹介事業者は、同時に個人情報保護法上の個人情報に関する義務も負います。
原則として収集できない個人情報
人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項、思想及び信条、労働組合への加入状況については、特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合を除き、収集することができません(平成11年労働省告示第141号)。
有料職業紹介基本契約書(人材紹介基本契約書)のサンプルと解説
以下、有料職業紹介基本契約(人材紹介基本契約)のサンプルから、主要なポイントについてご説明します。以下は、主要条項の一部を取り上げますが、今後必要に応じ加筆する予定です。
なお、サンプル条文は、もっぱら条項の趣旨、目的、狙いを解説することを目的としています。それで、条項間の整合性については検証しておらず、必要な事項すべてを網羅しているとは限りません。また、各規定の有効性・執行可能性についての保証もありません。それで、本ページのサンプルを「雛形(ひな形)」としてそのまま使用することはご遠慮ください。
契約の目的
規定例
第*条 (本契約の目的) |
条項のポイント~契約目的の明示
契約の最初に、契約を締結する目的を明らかにするための条項を置くことは実務上多く見られます。特に、基本契約であれば、当事者間のどのような性質の取引に適用されるのかを明らかにする機能もあります。
上のサンプルでは、甲乙間の労働者紹介に関する取引であって、かつ、乙が紹介会社・甲が求人社である取引に適用される基本契約であることを明示しています。
手数料に関する事項
規定例
第*条 (紹介手数料) |
条項のポイント1~報酬が発生する条件の明示
人材紹介会社の場合の報酬体系は、ほとんどの場合、成果報酬型です。それで、報酬が発生する条件を明確に規定しておくことが大切です。
上のサンプルでは、雇用契約の締結に加え、採用者が実際に勤務を開始することを報酬発生の条件としています。それは、雇用契約を締結したものの実際に勤務を開始しないというケースがありうるからです。
条項のポイント2~報酬(紹介手数料)の算定方法
報酬(紹介手数料)の算定方法も明確に規定しておくことは重要といえます。上のサンプルでは、第2項と第3項にその点を定めています。
職業紹介においては報酬(紹介手数料)は、当該人材の年収の一定割合で定めることが非常に多いといえますが、その「年収」を明確に定義し、疑義や誤解のないようにすることは重要といえます。
上のサンプルでは、基本給、各種手当、賞与が含まれることを明示しているほか、固定残業代も含まれることを明示しています。
返戻金制度に関する事項
規定例
第*条 (紹介手数料の返金) |
条項のポイント1~紹介手数料の返金額と対象時期の明示
人材紹介取引では、紹介により採用した求職者が、入社後のうち一定期間内に退職した場合、紹介手数料(報酬)の一部が返還される旨定めることが少なくありません。
それで、いつまでの間が返金の対象となるのか、返金額の割合を明示しておくことは重要といえます。
条項のポイント2~返還事由の明示
返金事由についてもできる限り明確に定めるようにします。
上のサンプルでは、返金事由を、紹介した人材の自己都合退職とした上で、2項で、雇用条件が実際のものと相違した場合には例外となることを念のため規定しています。この例外事由については、そもそも自己都合ではないのだからあえて記載する必要がないという考えもありますが、微妙なケースで争いが生じやすいものについては念のため記載するということは契約実務では珍しくありませセん。
紹介者との直接連絡の制限
規定例
第*条 (直接取引の禁止) |
条項のポイント1~紹介者との直接取引の制限に関する規定の明示
有料職業紹介事業者は、求職者と企業を仲介し、雇用関係の成立に向けた斡旋をビジネスとしています。したがって、求人者である企業が、求職者の紹介を受けた後、求職者とのやり取りをしてしまうと、人材紹介事業者としては大きな不利益を被ることになります。
したがって、こうした直接連絡の禁止を定める規定は珍しくありませセん。
条項のポイント2~違約金の規定
また、直接連絡の禁止の規定を実効性があるものとするために、上のサンプルのように、本来の紹介手数料のほかに違約金(ペナルティ)を定める規定も頻繁に使用されます。
この点、違約金ペナルティの内容として、本来人材紹介会社に支払うべき紹介手数料と同額とすることもできますし、そのような契約規定もあります。他方、違約金が紹介手数料と同額だとすると、求人社としては、「黙っていてバレなければラッキー、直接取引がばれても紹介手数料を支払うことで済むなら、黙っていたほうが得」と考えるところも出てきます。そのため、違反行為の抑止という観点からは、紹介手数料に金額を加算する定めをすることも有効な手といえます。
秘密保持に関する事項
規定例
第*条 (秘密保持) |
条項のポイント~秘密保持に関する事項の明示
人材紹介業務を通して、人材紹介会社と求人社は、相互に秘密情報を交わし合うことになります。
そのため、秘密保持条項を定めることはほぼ必須といってよいと思います。
なお、上のサンプルは比較的シンプルな条項例です。秘密保持条項に関してさらに盛り込むことを検討できる規定については、以下をご参照ください。
https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/it/index/it_nda/
このページは作成途中です。加筆次第随時公開します。
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