取締役の解任

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取締役の退任事由

 会社の取締役がその地位を失う(退任する)理由となるものには、種々のものがあります。具体的には以下のとおりです。

  • 辞任
  • 解任
  • 任期満了
  • 欠格事由の発生
  • 死亡
  • 会社の解散

 本ページでは、実務上多くの問題が生じ、紛争の種になりやすい、「解任」についてご説明します。なお、取締役が自ら辞任する場合については、取締役の退任・辞任のページをご覧ください。

 会社サイドとして、取締役に不正行為があったり、能力不足のため、不適格な取締役を退任させたい、そして、次の任期満了での退任まで待つことができない、という場合もあるかと思います。

 そこで以下、取締役を任期途中で解任する場合に考慮すべき点についてご説明します。

解任の方法

代表取締役を解任(解職)し平取締役にする方法

 まず、代表取締役について、代表取締役から解職し、平取締役にする場合です。

取締役会設置会社の場合

 会社が取締役会設置会社である場合、取締役会の決議で解職を行えます。なお、多くの会社では代表取締役が取締役会の招集権者であると定められていますが、この場合、平取締役が取締役会を招集する必要があります。取締役の招集についての解説は、https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/kaishahou/index/yakkai_tetuduki/をご覧ください。

取締役会非設置会社の場合

 取締役会非設置会社の場合、代表取締役は取締役の互選で選任されているケースが多いと思われます。この場合、取締役の過半数の意見又は株主総会で解任できるとして登記実務では運用されています。

取締役そのものから解任する方法

株主総会決議が必要

 他方、ある取締役を、取締役そのものから解任する場合はどんな手続が必要でしょうか。そのためには、株主総会を開き、その取締役に対する解任決議をする必要があります(会社法339条1項)。

 株主総会での解任決議は、定時株主総会で行うこともできます。しかし、定時株主総会がまだ先であり、すぐに解任したい場合、臨時株主総会を開いて、取締役の解任決議をすることもできます。

株主総会決議成立要件

 決議の要件は、定款に特別な定めがない限り、議決権の過半数を有する株主が出席する株主総会で、出席株主の議決権の過半数が解任に賛成することです(会社法341条[カーソルを載せて条文表示])。

 この点、定足数は定款で総株主の議決権数の1/3まで減少させることができます。

例外~取締役解任の訴え

 取締役の解任が株主総会決議でしかできないとなると、問題を起こしている取締役のことを多数派の株主が放置している場合、当該取締役の解任はできなくなることになります。

 しかし会社法は、こうした事態を是正すべき場合があると考え、少数株主が「取締役解任の訴え」を提起する制度を定めました(会社法854条1項[カーソルを載せて条文表示])。

 具体的には、大筋、以下のような要件がある場合です。

  • 取締役の職務執行に関し、不正行為や、法令若しくは定款に違反する重大な行為があったこと
  • 訴えを起こす株主が発行済み株式数の3%以上を保有していること
  • 株主総会で取締役解任決議が否決されたこと
  • 株主総会の開催日から30日以内に、解任の訴えを提起すること

役員を解任するための理由は必要か

解任自体に理由は不要

 取締役の解任は、理由があってもなくても、いつでも株主総会で解任することができます。

 つまり、株主総会での解任決議が適法に成立している限り、いかなる理由であっても、取締役の解任自体が無効になることはありません。

正当理由なき解任と損害賠償責任

考え方

 ただし、ある取締役を正当な理由なく解任した場合には、会社は、解任によって解任された取締役に発生した損害を賠償しなければなりません(会社法339条2項[カーソルを載せて条文表示])。

基本~残存任期の報酬額

 この場合、賠償額はどのように定められるでしょうか。

 それは、取締役が解任されなければ在任中および任期満了時に得られた利益の額と解されており、具体的には、残存任期中の役員報酬に相当する金額が基本となります。

 ただし、東京地裁平成27年6月29日判決は、退任時点での残任期は5年5か月であったところ、損害賠償額としては退任時から2年分を認めました。そのため、ケースによっては残存任期の役員報酬の一部に限定される場合もありえます。

退職慰労金・賞与・その他

 他方、退職慰労金・賞与に相当する金額が賠償の対象となるかについては、判例がわかれており、ケース・バイ・ケースであると考えられます。賞与規程・退職慰労金規程や支給慣行によって一定の基準に基づく賞与や退職慰労金が支払われていたという場合には、退職慰労金・賞与も賠償請求の対象となる場合があります。

 他方、慰謝料・弁護士費用は賠償には含まれないと解するのが一般的です。

特例有限会社における任期のない取締役の解任の例外

 新会社法の施行前に存在していた「有限会社」は、新会社法の施行後も「特例有限会社」として存続しています。そして、有限会社においては任期の定めがない取締役がありました。

 このようなケースで、任期のない取締役を解任した場合、損害賠償についてはどのように考えるべきでしょうか。

 この点、東京地裁平成28年6月29日判決は、特例有限会社における任期の定めのない取締役が解任された場合、解任の正当な理由の有無にかかわらず、取締役は、少なくとも会社法339条2項に基づく損害賠償請求をすることはできない、と判断しました。

 したがって、この裁判例を前提とする限り、特例有限会社における任期のない取締役を解任した場合、正当な理由の有無に関わらず損害賠償請求ができないとされる可能性があります。

解任に正当な理由が認められる場合

基本的な考え方

 では、取締役の解任について「正当な理由」が認められる場合とは、どんな場合でしょうか。

 基本的な発想としては、「当該取締役による業務執行の障害となるべき客観的状況が生じていること」とされています。

 例えば、最高裁昭和57年1月21日判決は、「本人の意思に反してまでも取締役たる資格を剥奪し、かつ任期満了まで取締役としての地位にあることに対する本人の期待をも無視するに足る客観的な事由」と述べています。

 なお、正当な理由については、会社に立証責任があります。

 以下、裁判例で取り上げられた例をご紹介します。

正当理由肯定例~経営判断の誤りによって会社に損害を与えた場合

広島地裁平成6年11月29日判決
裁判所は、「多額の株式の信用取引やインパクトローンという投機性の高い取引を独断で行い、結果的に多額の損失を会社に与えた」ことを「代表取締役としての経営判断の誤り」と評価し、かつ、会社の売上が毎年着実に伸びており、リスクの大きい株式取引に手を出さなければならない緊急性がなく、折からの財テクブームに乗せられたという側面がかなり強いこと、会社資産が危殆に瀕するという事態をもたらしたことについて、経営者としての責任を逃れることはできない」と延べ、正当な理由を肯定しました。

正当理由肯定例~独断専行と他の取締役への業務妨害

大阪地裁平成10年1月28日判決
裁判所は、独断専行の挙に出た代表取締役に対する解任について、「虚言を弄して自らの妻を取締役として登記し、他の代表取締役が業務を遂行することを妨害するなどして、他の取締役、従業員の間において、当該代表取締役が取締役として業務を執行するにつき著しく信用を喪失した」と延べ、正当な理由を肯定しました。

正当理由肯定例~会社への敵対行為

東京地裁平成18年8月30日判決
 裁判所は、会社の情報を国土交通相といった官庁のみならず週刊誌の記者に提供していた取締役について、公益目的なら週刊誌の記者に情報提供する必要がなかったこと、当該取締役の行動経緯から、当該行為が自己への人事に対する不満を契機とした明らかな会社への敵対行為であって業務を阻害するものであったとして、正当な理由を肯定しました。

正当理由肯定例~経営能力の明らかな欠如

横浜地裁平成24年7月20日判決
 プロボウラーであった取締役A氏は、取締役に就任してボウリング事業を事業として行うことになりましたが、ボウリング事業の収益が上がるよう努力すべきところ、A氏が解任の通知を受けた直後に入金された7万円しかボウリング事業の売上がなかった上、使途・効果の不明な経費利用があり、経費削減といった努力が見られず、また、収益を上げるための努力も見られないという状態でした。そのため、会社はそれゆえにボウリング事業から撤退しました。

 こうした状況で、裁判所は、A氏にはボウリング事業を展開していくだけの能力がなかった、と判断し、解任に正当な理由があると判断しました。

解任に正当な理由が認められない場合

 他方、上でご紹介した「当該取締役による業務執行の障害となるべき客観的状況」がない場合、解任に正当な理由がないと判断されています。

 つまり、当該取締役の職務遂行が大株主の好みに合わないとか、当該取締役と代表者との折り合いが悪いといった、単なに主観的にみて信頼関係を喪失したというだけでは足りないということになります。

 以下、正当な理由が否定された例をご紹介します。

正当理由否定例~他の取締役との折り合いの悪さ

東京地裁昭和57年12月23日判決
 会社から解任を受けた取締役A氏は、会社内で顕著に孤立するようになったものの、裁判所は、その理由が、会社代表者との折合いが悪くなったことに最大の原因がある、と判断しました。

 他方で裁判所は、A氏には感情の起伏が激しく協調性に欠けるところがあるものの、入社して以来10年余にわたって勤務し、取締役に就任するなどしているところから、力量を評価されていたといえること、A氏の性格や行状に勤務を継続していくことができない程の特段の問題点があったわけではない等という理由も述べ、解任には正当な理由がないと判断しました。

正当理由否定例~大株主との信頼関係の喪失

東京地裁平成27年6月22日判決
 取締役を解任した会社は、大株主である創業家と当該取締役との信頼関係が破壊されたことが解任の正当な理由となると主張しました。

 裁判所は、正当な理由の有無は、業務執行の障害となるべき客観的状況の有無により判断すべきであり、特段の事情のない限り、大株主との信頼関係の喪失が正当な理由に該当するとは解されない、と述べて、正当な理由を否定しました。


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