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1.2.4 取締役の対会社取引・利益相反取引の規制

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取締役の忠実義務

 会社法355条は、「取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。」と規定し、この義務を「忠実義務」といいます。

 そして、この忠実義務の一つに、自己又は第三者の利益を優先させて会社の利益を犠牲にするようなことをしない、ということが含まれます。会社法は、取締役が会社と利益が相反する行為を制限していますが、その根拠はこの忠実義務にあります。

 会社と取締役の取引の規制

会社と取締役の取引の規制の概要

 利益相反行為を禁止する一つの規定として、会社と取締役の取引があります。例えば、取締役が会社に自分の商品を売る(その逆も同様)、会社が取締役に金銭を貸し付ける、といったもが挙げられます(会社法356条1項2号[カーソルを載せて条文表示])。

この場合も、株主総会(取締役会非設置会社の場合)又は取締役会の承認が必要となります(会社法365条1項[カーソルを載せて条文表示])。それは、取締役と会社が取引をする場合、取締役が会社の利益を犠牲にして、自己又は第三者の利益を図り、会社が損害を受けるおそれがあるためです。

会社と取締役の取引の具体例

 会社と取締役の取引には、例として以下のようなものがあります。

  • 取締役と会社の間で行われる売買契約
  • 取締役から会社への金銭の貸付で、利息が発生するもの
  • 会社が取締役への債務免除
  • 取締役が受取人となる会社による手形の振出
  • 会社から取締役への金品の贈与

同一人物が取締役を兼務する会社間の取引

 会社と取締役個人の取引だけでなく、法人間の取引であっても、以下のような場合には規制(会社の承認)の対象となります。

  • A社(甲氏が代表取締役)とB社(甲氏が代表取締役)
       この場合、A社・B社両者で規制(承認)の対象となります。

  • A社(甲氏が代表取締役)とB社(甲氏が取締役)
       この場合、B社において規制(承認)の対象となります。

  • A社(甲氏が代表取締役)とB社(甲氏が100%株主)
       この場合、A社において規制(承認)の対象となります。

  • A社(甲氏が平取締役)とB社(甲氏が平取締役)
       この場合、A社B社いずれにおいても規制(承認)の対象とはなりません。

承認を得るための手続

 取締役と会社との取引を行う場合、株主総会(取締役会非設置会社の場合)又は取締役会の承認が必要となります。その際には、当該取引につき重要な事実を開示しなければなりません。この重要な事実とは、当該取引によって会社の利益が損なわれたり、損害を受けることがないかについて判断するために必要な事実と解されます。

また、取締役会設置会社の場合には、当該取締役は、取引後、遅滞なく当該取引についての重要な事実を取締役会に報告する必要がある点にも留意する必要があります(会社法365条2項[カーソルを載せて条文表示])。

 取締役のその他利益相反行為の制限

他の利益相反行為の具体例

 上に述べた会社と取締役の取引のほか、会社法は、会社と取締役の利益が相反する行為も、同様の制限に置いています。これは、会社と第三者との取引も含まれます。

こうした行為の例としては、以下のようなものがあります。

  • 会社が、取締役の第三者に対する債務を保証する行為
  • 取締役の第三者に対する債務を担保するため、会社の資産に担保を設定する行為
  • 会社が、取締役の第三者に対する債務を引き受ける行為

承認を得るための手続

 取締役と会社との利益相反行為が行われる場合、対会社取引の場合と同様、株主総会(取締役会非設置会社の場合)又は取締役会の承認が必要となります。

 また、取締役会設置会社については、当該取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければなりません(会社法365条2項)。

 承認のない利益相反行為の効果

他の利益相反行為の効力への影響

 まず、承認を得ないで行った利益相反取引については、原則として無効になると解されています。

 ただし、会社が第三者に対して、当該利益相反行為が無効であることを主張するには、当該取引が承認を得ていない利益相反取引であるということを、当該第三者が知っていたか、又は知らなかったことに重過失があるという事実を主張立証する必要があります。それは、当該取引が承認を得ていない利益相反行為であることを知らないで取引に入った第三者を保護するためです。

当該取締役に対する損害賠償請求

 会社と当該取締役との関係では、利益相反取引により会社に損害が生じた場合、会社は取締役に対し、損害賠償責任請求が可能です。

 また、承認を得たとしても、結果的に当該利益相反行為によって会社が損害を受けた場合、当該取引を行った取締役は会社に対して損害賠償責任を負います。

 この点、当該取引を行った取締役だけではなく承認決議に賛成した取締役も、過失がなかったことを立証しない限り連帯して損害賠償責任を負うと解されています。

 取締役会等の承認が不要の場合

 以上に対し、会社と取締役との取引や、会社・取締役の利益が相反するものの、取締役・株主総会の承認が不要な場合もあります。つまり、会社と取締役の利益は相反するものの、会社の利益を害するおそれのない取引は、あえて制限する理由がないため、承認は必要ありません。具体的には、以下のような場合があります。

  • 取締役の会社に対する、無利息・無担保での金銭貸付
  • 取締役から会社に対する金品の無償贈与
  • 取締役から会社に対する債務の免除
  • 株式の引受、現物出資

 また、取締役がその会社の100%の株主である場合には、実質的には会社(の所有者である株主)と取締役との間では利益が相反することはありませんので、この場合も承認は不要ということになります。同様に、当該利益相反行為について、正式な承認はないものの、株主全員が同意している場合も同様といえます。

 


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