取締役の報酬・賞与・退職慰労金

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取締役の報酬の根拠・定め方

取締役の報酬の根拠

 取締役が会社から報酬を貰える根拠はどこにあるのでしょうか。この点会社法は、取締役の報酬額につき、定款で定めている場合を除き(通常定款で定めることはありません)、株主総会の決議で定める、と規定しています(会社法361条1項[条文表示])。

 したがって、法の建前でいえば、株主総会の決議がない限り、報酬請求権は発生しないということになります。

取締役の報酬の定め方~株主総会で定める

 取締役の報酬については、前述のとおり株主総会で決議します。具体的には、議案を株主総会に提出し、普通決議で可決します。

 そして、株主総会で決議する事項としては、(1)金額が確定したものについてはその金額、(2)金額が確定していないものについてはその具体的な算出方法、(3)金銭でないものについてはその具体的な内容となります(会社法361条1項1号~3号)。

 また、役員報酬決議について議案を提出する場合には、株主総会参考書類には、役員報酬の算定の基準について記載する必要があります(会社法施行規則82条1項1号)。さらに、役員報酬についてのある議案が、複数の取締役についての議案であるときは、当該議案に関する取締役の人数も、株主総会参考書類に記載します(会社法施行規則82条1項3号)。

報酬の範囲は金銭に限られない

 ここで留意すべきは、会社法361条1項3号でも示唆されているとおり、「報酬」とは、取締役の職務執行の対価であればよく、金銭で支払われるものに限らない、ということです。なおこの点は、会社法361条1項[条文表示]で、「職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」と定められ、明示されました。

 例えば、会社の取締役に対する貸金などの債権放棄、会社が取締役の債務を無償で引き受けること、社宅の無償供与等も報酬に含まれます。この点漏れがないよう留意が必要でしょう。

役員報酬の一般的な定め方~全員の「枠」を決める

 これまで述べているとおり、役員報酬については株主総会決議で決定する必要はあるものの、個々の取締役一人一人別個にその人の報酬額を定める、というやりかたをしている例は少数です。

 通常は、取締役全員の報酬の総額を「○○万円(○億円)以内」と定め、個々の取締役への配分額は、取締役会の決議に一任する、という決定がなされます。議事録では、以下のような記載がされることになると思われます(一例です)。

第×号議案 役員報酬に関する件
議長は、取締役全員の報酬総額については、使用人兼務役員の使用人分の報酬を含めず、年額金××××万円以内とし、その配分方法は取締役会決議に一任したい旨を述べ、その理由を説明し、その賛否を議場に諮ったところ、満場一致をもってこれに賛成した。

 さらに、取締役会は、個々の取締役への配分を代表取締役に一任することもできると考えられています。

取締役の報酬決議の事後の追認の可否

 多くの中小企業では、厳密に取締役の報酬を株主総会で決議してないケースが少なくないと考えられます。この場合、過去に支払われた役員報酬について、事後的に株主総会で追認決議をすることは可能でしょうか。

 この点、最高裁平成17年2月15日判決は、ある株主が、株主総会決議を経ずに支払われてきた役員報酬の支払は無効であると主張して提訴した後、会社側が、提訴後、あわてて株主総会を開き、事後的に既に支払われた役員報酬の支払を承認する決議をしたというケースです。

 最高裁は、株式会社の取締役及び監査役の報酬を株主総会の決議によって定めると規定している商法の趣旨目的は、取締役(会)の「お手盛り」の防止(つまり自分で自分
の報酬を決めることの防止)と株主の利益保護にあり、株主総会の決議を経ずに役員報酬が支払われた場合でも、事後的にせよ上記の規定の趣旨目的は達せられるという理由で、有効と判断しました。

 もっとも、この判決は事後的な決議の存在を主張することが訴訟上の信義に反すると認められるような事情がある場合、無効とされる余地を残していますので、この点注意が必要です。

取締役の賞与の定め方

株主総会で定める

 取締役に対する賞与も、報酬と同様、株主総会決議で決定します。この点、賞与は、従前は会社の利益処分案に総額を記載し、株主総会の承認決議を得るものとされました。

 この点会社法では、役員報酬について「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」と定められましたので(会社法361条1項)、賞与が職務執行の対価としての性質を有する限り、利益処分としてではなく、役員報酬の一つとして株主総会の承認決議を得ることとなります。

 もっとも、役員賞与の会社法上の扱いは変わったものの、法人税法上損金不算入であることに変わりはないと考えられている点、注意が必要です。

総額の決定で足りる

 この賞与についても、個々の取締役への具体的な配分については、株主総会が取締役会に、取締役会が代表取締役に一任できると考えられています。

取締役の年間の報酬に含めることも可能

 前述のとおり、会社法では、「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」が「報酬等」として整理されました。

 それで実務上は、株主総会決議において、あえて賞与という単独の費目で決議するよりも、当該事業年度の1年間における役員全員の報酬総額を株主総会において定めておき、その総枠内の中で、 取締役に対する月額の報酬や賞与の支給を取締役会決議によって行うことが多いのではないかと考えられます。

取締役の退職慰労金の定め方

株主総会で定める

 取締役が退職時に会社から受け取る退職金を、通常、退職慰労金といいます。退職慰労金は、一般的には、在職中の職務執行に対する対価としての性質をもつものと解され、これを支払うためには、取締役の報酬と同様、定款または株主総会の決議によることが必要です

 なお、退職慰労金に関する議案を株主総会に提出する際には、株主総会参考書類には、退職する取締役の略歴を記載する必要があります(会社法施行規則82条1項4号)。

退職慰労金の総額の開示で足りる

 報酬、賞与と同様、株主総会では、退職慰労金の総額を「○○万円以内」とを定め、退職する個々の取締役への具体的な配分は、取締役会に一任することができます。

退職慰労金規程に沿って取締役会に一任する決議

退職慰労金規程に即せば取締役会への一任も可能

 例えば、ある支払時期に退職者が1名しかいない場合には、総額で決めてもその退職者に支払われる退職慰労金が明らかになってしまいます。このような場合、どのような決議ができるでしょうか。

 この点、最高裁昭和44年10月28日判決は、退職役員に対する退職慰労金支給に関し、取締役会に一任するとの株主総会決議の有効性が争われた事案です。

 裁判所は、「従来…会社においては、退任役員に対する退職慰労金の支給に関し、…慣行および内規によつて一定の支給基準が確立されており、右支給基準は株主らにも推知しうベきもの」あったという前提のもと、当該決議が「本件退任役員に対する退職慰労金について、黙示的に、右支給基準をもつて限度とする範囲内において、各自の在職中の功罪、退職理由など種々の事情を考慮し、相当な金額を支給すべきものとする趣旨であつた」と述べて、決議を有効としました。

 したがって、会社に一定の支給基準に従って役員退職金を支払うという内規があり、かつ株主がこれを知ろうと思えば知ることのできる状況にあれば、株主総会が、かかる内規に従って相当な額の退職金を支払うべきことを取締役会に一任する、という決議をするだけでも足りるということになります。

株主総会参考書類への記載

 一定の内規に従って役員退職金を支払うという決議の場合、株主総会参考書類において内規を開示する必要はあるでしょうか。

 この点、会社法施行規則82条2項には、「議案が一定の基準に従い退職慰労金の額を決定することを取締役、監査役その他の第三者に一任するものであるときは、株主総会参考書類には、当該一定の基準の内容を記載しなければならない。ただし、各株主が当該基準を知ることができるようにするための適切な措置を講じている場合は、この限りでない。」とあります。

 したがって、内規について、「各株主が当該基準を知ることができるようにするための適切な措置を講じて」いれば、内規自体を株主総会参考書類として開示する必要はない、ということになります。

 例えばこの点、当該内規を本社に備え置いておき、株主から内規の閲覧の求めがあれば、閲覧を許すといった措置をとることが考えられます。

慣行による支給基準の適用

 上の最高裁も述べているとおり、一定の支給基準が確立されていることは、退職慰労金規程といった内規に限らず、過去の支給慣行によることもできます。

 もっとも、歴史の長い大企業ならともかく、中小企業であれば、一定の支給基準が確立しているといえるほどに確立した慣行がないか、あっても立証が困難なことが少なくないと思われます。

 したがって、役員に退職慰労金を支給することが見込まれるような状況になれば、退職慰労金規程を整備しておくことは望ましいといえます。

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