労働契約の終了~退職後の労働者の義務
退職後の競業避止義務
退職後の競業避止義務を課すことはできるか
企業の競争力のかなりの部分は、無形的資産、ノウハウや情報にあります。それで、被用者が退職後に、同業他社へ就職したり独立自営した場合、会社のノウハウや機密が外部に洩れることになり、会社に損害をもたらす可能性があるため、退職した被用者には、競合する会社に就職させないよう義務(競業避止義務)を課するケースが増えています。
では、被用者には一般的に競業避止義務があるでしょうか。結論的には、ないといえます。この点は、昭和43年3月27日金沢地裁判決が「習得した業務上の知識、経験、技術は労働者の人格的財産の一部をなすもので、これを退職後にどのように生かして利用していくかは各人の自由に属し、特約もなしにこの自由を拘束することはできない」と述べるとおりです。
退職後の競業避止義務が有効とされる場合
ですからまず、退職後の競業避止義務が有効と判断されるためには、就業規則に競業避止義務を盛り込んだり、誓約書などを取るなどする必要があります。
しかし、どんな内容の競業避止義務も有効とされるわけではありません。極端に重い競業避止義務を課すことは、職業選択の自由を侵害するからです。
具体的に、許される競業避止義務の範囲については、競業避止の内容が必要最小限の範囲であり、また当該競業避止義務を従業員に負担させるに足りうる事情が存するなど合理的なものでなければならないとされています。
必要最小限の範囲としては、禁止期間、禁止場所、禁止する業種について最小限でなければなりません。また、合理性の判断としては、その被用者(例えば高度な機密に触れていた者と単なる末端の従業員では当然異なる)に競業避止義務を課さないことによる会社の不利益の重大性、制限を受ける被用者の不利益に対し、何らかの代償措置があるか否か、競業行為の態様などが検討されます。
有効な退職後の競業避止義務に違反した場合
退職後の競業避止義務が有効であるとして、この義務に違反した行為に対しては、差止請求、損害賠償請求等ができ、就業規則等で定めがあれば、退職金を支払わない、または返還を求めることも可能な場合もあります。
もっとも、就業規則等で競業避止義務を定める場合、違反した場合の措置も定めておくことがよいといえます。
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